福島で強めた「絆」 第43回彗星会議レポート
【2013年6月24日 第43回彗星会議実行委員長 薄謙一さん】7月1日更新
6月15日、16日の2日間にわたり、福島県田村市星の村天文台などで「第43回彗星会議」が開催された。研究発表や講演、実験工作など、彗星を通じて多くの天文ファン・研究者が絆を深め合ったもようをレポートしていただいた。
彗星会議レポート
6月15日(土)と16日(日)の2日間にわたり、「第43回彗星会議」が福島県田村市星の村天文台をメイン会場として開催されました。
東日本大震災からの復興支援をテーマに「彗星会議 in 福島」と銘打った今回は、西日本から駆けつけた14名を含めた68人の参加者があり、星の村天文台メイン望遠鏡の名前どおり「絆(KIZUNA)」を強め合った2日間となりました。
今回のメイン会場は、おそらく彗星会議初のプラネタリウム館という異色の会場です。快適な薄暗い閉鎖空間の中でリクライニングシートを倒しながら研究発表を聴くのは、参加者にとってはある意味で地獄だったかもしれませんね(笑)。
《会議初日》
簡単に開会式を済ませ、すぐに最初のプログラム「彗星レビュー」に突入。過去1年の彗星観測全般を振り返る「彗星レビュー」は、これを目当てに参加する方も多いという看板プログラムです。「位置観測の部」は愛媛県久万高原天体観測館の中村彰正氏が、そして「光度観測の部」はMISAOプロジェクト吉田誠一氏が、独自の視点で2012年を振り返りまとめていただきました。
「彗星レビュー」の次は、星の村天文台の大野裕明台長による「復興支援ミニ講演会」。会議開催地の福島県では、震災と原発事故の影響で今もなお多くの方が居住地を奪われ避難生活を余儀なくされています。講演会では、震度7を直接経験した大野台長が当時の様子を振り返りながら、福島の放射線被害の現状と、震災による倒壊から復活した新望遠鏡「絆(KIZUNA)」が結んだ全国の天文ファンの絆についてご講演いただきました。
全体会の研究発表では、8名のエントリーがありました。発表内容も科学あり、文学ありと幅広く、彗星研究の切り口の多様性をうかがい知る事ができるのもこの会議の特徴です。
初日の締めは、宿泊施設「星の村ふれあい館」に場所を移して懇親会が行われました。ここでサプライズを2つ用意しました。1つは、福島県の小学生が描いた「ほうき星イラストコンテスト」、その名も「HKB(HouKiBoshi)総選挙」の最終審査です。応募総数62枚の中から最終選考に残った17枚のうち、もっとも印象に残った1枚を参加者全員に投票してもらいます。最優秀賞はビクセンのミニポルタ望遠鏡がもらえるという責任重大な審査。どれも甲乙つけがたい作品ばかりで、皆さんかなり悩んでいるようでした。悩む姿を傍から眺めると結構面白いものです。自分の中のSが目覚めたのかも…しれませんね。
もう1つのサプライズは、運営に関わった方の奥様のお誕生日セレモニーです。とある筋からお誕生日が本会議開催日と重なるという情報を入手した実行委員会は、ひそかに花束を準備し、懇親会の席で大々的にご披露させていただきました。正に、サプライズ!
7月1日追記6月29日(土)〜9月1日(日)まで、「ほうき星イラストコンテスト」の作品を田村市星の村天文台で展示中(期間延長の可能性あり)。
《会議2日目》
前日に引き続き研究発表で幕を開けた会議2日目は、また今までにない試みを取り入れた会議となりました。当初は観測手法ごとの分科会を予定していましたが、部屋数の問題で断念。代わりに討論・学習・工作実験の3つに分けて分科会を再編成しました。初の試みではありましたが、結果的には参加者全員がおおむね満足していただけたかと思います。
討論の分科会では「彗星レビュー」でもお馴染みの吉田誠一氏を座長に「このままICQ(International Comet Quarterly)の休眠状態が続いたら、どうするか」について、約10名の見識者で徹底的に討論していただきました。
学習の分科会では、天文教育普及研究会の鈴木文二氏を座長兼講師に、「分光と偏光観測」について掘り下げて学びました。
工作実験の分科会では、彗星物理水曜ゼミの菅原賢氏を座長兼講師に、「ドライアイスで彗星核をつくる」実験工作を実施しました。
彗星会議の最後を締めくくるのは、地元会津大学准教授の寺薗淳也先生による特別講演会です。このプレゼンテーションでは、会津大学が関わった小惑星探査機「はやぶさ」の事業を紹介するとともに、多額の費用がかかる宇宙開発において一般のファンの支持を増やす事の重要性を訴えていたように感じました。これは天文学全般に共通する命題でもあります。
《彗星会議を終えて》
アイソン彗星が接近しつつある中での彗星会議。大震災被災地であるわが福島県で無事開催できたことは本当に喜ばしい限りです。実行委員会を代表し、支援していただきました全ての方に御礼申し上げます。
被災地の現状は一刻一刻と変化しています。良くなるものもあれば、逆に悪くなるものもあります。今の私たちがもっとも危惧しているのは、震災の、そして原発事故の記憶の風化です。彗星会議を終えて思うのは、かつて不吉の象徴といわれた彗星が逆に被災地を支援してくれる全国の天文ファンの絆を強くしてくれたこと。私たちからすれば彗星こそが絆の象徴です。
アイソン彗星が明るくなればなるほど、ここ福島に訪れた方の脳裏に被災地の記憶がよみがえることを願わざるをえません。