7月までのアイソン彗星動向と今後の予測
【2013年8月8日 星ナビ】
6月から7月にかけて地球から見えない位置にあったアイソン彗星(C/2012 S1)は、8月後半には夜明け前の空に昇ってくる。明るさの変化など、7月までの動きをまとめた「星ナビ」記事を紹介しよう。
7月5日発売「星ナビ」2013年8月号(執筆:吉田誠一さん)をweb用に再構成したものです。
「彗星の年」の前半の主役だったパンスターズ彗星(C/2011 L4)は、期待されたほどの大彗星とはならなかったが、最大で1等級になり、アンドロメダ座大銀河(M31)にも接近して最後にはたいへん長いアンチテイルまで見せてくれた。
後半はいよいよ大本命のアイソン彗星(C/2012 S1)がやってくる。7月には太陽と合になって一時的に観測できなくなっているが、8月下旬に明け方の空に姿を現した後は急激に明るくなり、11〜12月の最盛期に向かって大彗星への道を一気に駆け上がるはずだ。近日点通過(太陽最接近)まで半年を切った今、アイソン彗星がどうなっているのか気になる読者も多いだろう。ここまでのアイソン彗星の情報をまとめておこう。
パンスターズ彗星フィーバーの陰で、アイソン彗星は次第に太陽に近づいてきた。今年の初めには、まだ太陽から5au(天文単位)以上と木星よりも遠く離れていたが、8月初めには2.5auまで近づいてきている。
昨年9月に発見されたアイソン彗星だが、その1年近く前の2011年12月〜2012年1月の記録も見つかっており、すでに観測期間は1年半に及んでいる。当初は19等級という暗さだったが、期待どおりに順調に増光し、2013年の初めには15.5等級まで明るくなった。NASAの彗星探査機「ディープインパクト」の観測では、1月の時点で6万km以上の尾を伸ばしていた。
だが2月以降は、少し気がかりな傾向を見せている。一転して増光が鈍ってしまったのだ。予報では、6月半ばの時点では14等級という予測だったのが、実際には15〜15.5等級で観測されている。2013年になってからの半年間は、まったく光度が上昇せずに停滞している。彗星の活動が少し鈍ってきているようだ。
ハッブル宇宙望遠鏡の4月の観測から、アイソン彗星の核の大きさは直径4〜6km以下だとわかっている。彗星としてはごく平均的な大きさだ。彗星が近日点を通過して生き残れるかどうかを示す「ボートルの限界」に当てはめると、太陽の表面近くまで接近するアイソン彗星が生き残るためには、絶対光度は7等級より明るい必要がある。アイソン彗星の絶対光度は、発見当時の明るさから計算すると5.5等級だが、最新の観測からは7等級となる。
とはいえ、2011年末に太陽の表面をかすめて南半球で大彗星となったラヴジョイ彗星(C/2011 W3)が絶対光度は15等級ときわめて小さな彗星だったのと比べれば、アイソン彗星ははるかに明るい彗星であることに変わりはない。
今年前半にはまだ太陽から遠いため、彗星の主成分である水の氷はほとんど蒸発していない。NASAの天文衛星「スウィフト」の1月の観測では、毎分50t以上の塵を放出している一方で、水はたったの60kgしかとらえられなかった。現在のアイソン彗星の明るさは、揮発性の高い一酸化炭素や二酸化炭素の蒸発によるものだ。水の氷が蒸発し、アイソン彗星が本格的に明るくなりはじめるのは秋になってからである。
8月下旬に明け方の空に姿を現すころには、太陽からの距離も2.5auを切る。当初の予報では11.5等級だが、最新の観測に基づいたとしても13等級ほどで、大型の望遠鏡なら眼視でも見えるほどには成長しているだろう。水の蒸発が活発になり、淡く広がるコマが眼視でとらえられるようになると、CCD観測からの予報よりも彗星が明るく見えることもある。明るさも、当初の予報どおりに復活するかもしれない。いずれにせよ、今後のアイソン彗星を占うためにも、8月下旬の明け方の空に現れるときの明るさは大いに注目される。
もっとも、たとえ当初の予報どおりに順調に増光したとしても、まだアイソン彗星が大彗星になると決まったわけではない。
アイソン彗星と同じく太陽の表面近くをかすめたラヴジョイ彗星が大彗星となったのは、近日点を通過した後のことで、それまでと比べて4.5等級も明るく化けた。南半球の夜空を彩った長大な尾は、すべて近日点を通過した後に放出された塵でできていた。つまり、これほど太陽に接近する彗星の場合、近日点を通過する前のようすからは通過後の姿はほとんど予想不可能なのである。
アイソン彗星も、近日点を通過した後に地球に近づいてくる12月が最大の観測好機となる。この時本当に史上最大級の大彗星となるかどうかは、11月29日の近日点通過後までのお楽しみだ。