色を扱うことの難しさ
個々の説明に入る前に、まず色の再現性について考えてみましょう。
RGB各色のフィルターを透過した光は、フィルターがどの波長(色)の光をどの程度透過するのかという特性(分光透過率特性)にしたがって、RGBの3つの信号に分けられます。この特性は図1のように表されます。
図1:RGB各色のフィルターの分光透過率(IDASゴーストレスフィルター)
横軸が光の波長(色)を示し、縦軸がその透過率を示します。フィルターの最大透過率の波長をピーク波長といいますが、このピークから左右に向けて透過率が減衰していきます。この透過された部分の光を積算したものが、RGBそれぞれの画像の輝度となるわけです。
さてこのままでは画像は単にデータとして存在しているだけですので、私たちがそれを色として認識することはできません。そこから色を認識するためには、表示デバイスを通してそのデータを視覚化する必要があります。
たとえばモニターで見るわけですね。そしてモニターはどのように色を表現しているかといえば、1ピクセルに対応する画素の中にRGBのフィルターがあって、RGBそれぞれの輝度を変化させることによって色を表現しています。このモニターで使われているRGBのフィルターが、撮影した時とまったく同じ分光透過率特性を持っている場合、正しい色が表示されることになります。しかし実際にはこの2つが同じになることはありません。ピーク波長も違うでしょうし、入出力特性のカーブも違います。ですので、なんらかの変換を行ってこの2つを同じにしてやる必要があります。
パソコンが普及し始めたころはその違いを吸収する仕組みは何もありませんでしたが、現在は各入出力デバイスには固有の特性を記述したプロファイルデータがあって、それを使って色の補正が行われるようになってきました。入力されたデータは、プロファイルデータを使って、機器に依存しない色空間に変換され、それがモニターに出力される時に再びモニター用のプロファイルで変換が行われるという仕組みです。
しかし、冷却CCDカメラとRGBフィルターの組み合わせに対しては、現状、何のプロファイルデータも用意されていません。つまり、デバイスが出力した生のデータが出てくるわけです。ですから私たちが撮影した天体画像から正しい色を導き出すという行為は、単に適切な露出倍数で補正すればよいという話ではなく、このプロファイル補正の部分を含んでいるということになります。本来であればプロファイルデータを作って対応すべきですが、それ以前に天体写真用の画像処理ソフトで、プロファイル補正を行えるソフトはわずかしかありません。よって、現状の対策としては、まず正しい色表現のできる(プロファイルデータできちんと補正されている)モニターを用意し、そこに表示される色を信じて、カラーバランスの調整を行うのが現実的です。このような正しい色を表示できるモニターも、最近はずいぶん安くなってきましたので、本格的に天体写真に取り組もうと思っている方は、ぜひ入手することをお勧めします。