【特集】2012年6月6日 金星の太陽面通過
6月6日の朝から昼過ぎにかけて、金星が太陽の前を横切る「金星の太陽面通過」が見られます。この現象は2004年6月8日にも起こりましたが、今回を見逃すと次回は世界中どこでも105年後(2117年12月)。平日の日中ですが、ぜひ時間を見つけて観察してみましょう。
太陽面通過の観察は太陽の観察とほとんど同じことですので、減光方法などに注意が必要です。記事を参考にして、安全に観察しましょう。5月21日の日食で使った器具が今回も活躍します。
どう見える?
左の図は、金星が太陽面上を動いていくようすを30分ごとに表したものです(地球の自転を考慮しない動き)。金星は北東やや北寄りから太陽面に入り込み、まっすぐ進んで北西やや西寄りへ抜けます。
一方、地上から見る場合は天頂が上になるので、右のように金星が見える位置は変化します。幸運にも、全国で太陽面通過の全経過を見られ、太陽の位置(方位と高度)を除けば地域による違いはほとんどありません。詳しい時刻についてはタイムテーブルをご参照ください。
金星の視直径は57.8秒角で、太陽面のおよそ33分の1の大きさに見えます。これは、地球から見る惑星の姿としてはもっとも大きいものです。日食めがねやフィルターを使った肉眼での観察に挑戦するのも面白いでしょう。ただし、正しいフィルター類を使っていても太陽観察は目に負担がかかるので、何分間も注視するのは避けてください。
太陽には黒点と呼ばれる模様があるので、運が良ければ金星と同時に見ることもできます。その際は大きさや形を比べてみてください。ちなみに、黒点は周囲より温度が少し低いため暗く見える点ですが、黒点自体も輝いていることに変わりないため、金星の方が黒く見えます。その違いは写真撮影でわかるかもしれません。
太陽面通過の大きな見どころの1つは、金星が太陽面の縁に重なる瞬間です。特に重なり始め(第1接触)と終わり(第4接触)の瞬間を見逃さないように、太陽像の方向や方角を事前にしっかり確かめておきましょう。また、金星が太陽面に入りきったとき(第2接触)と再び太陽面に接したとき(第3接触)には、太陽の縁と金星がつながったように見える「ブラックドロップ」と呼ばれる現象が見られることがあります。かつては金星の大気がブラックドロップを引き起こすと考えられていましたが、現在では望遠鏡のピントが合ってないなどの理由で生じる見かけの現象だとわかっています。
札幌、東京、福岡での太陽の位置
天頂(頭の真上)を中心に、東を左として見上げたときの空に、太陽が見える位置を主な現象ととともに示した図です。おおむね、全国で太陽が30度前後まで上った頃に太陽面通過が始まり、天頂近くで最小角距離(金星がもっとも太陽に深く入り込む)と太陽面通過の終了をむかえます。
タイムテーブル
各地の現象の時刻は以下のとおりです(国立天文台暦計算室のデータをもとにしています)。
地名 | 第1接触 | 第2接触 | 最小角距離 | 第3接触 | 第4接触 |
---|---|---|---|---|---|
札幌 | 7時10分03秒 | 7時27分37秒 | 10時29分22秒 | 13時30分26秒 | 13時47分52秒 |
青森 | 7時10分19秒 | 7時27分53秒 | 10時29分27秒 | 13時30分18秒 | 13時47分44秒 |
仙台 | 7時10分36秒 | 7時28分11秒 | 10時29分31秒 | 13時30分06秒 | 13時47分32秒 |
東京 | 7時10分53秒 | 7時28分29秒 | 10時29分39秒 | 13時29分59秒 | 13時47分26秒 |
名古屋 | 7時10分56秒 | 7時28分33秒 | 10時29分49秒 | 13時30分10秒 | 13時47分35秒 |
地名 | 第1接触 | 第2接触 | 最小角距離 | 第3接触 | 第4接触 |
---|---|---|---|---|---|
京都 | 7時10分57秒 | 7時28分33秒 | 10時29分53秒 | 13時30分14秒 | 13時47分40秒 |
広島 | 7時11分00秒 | 7時28分37秒 | 10時30分05秒 | 13時30分27秒 | 13時47分52秒 |
福岡 | 7時11分04秒 | 7時28分41秒 | 10時30分13秒 | 13時30分34秒 | 13時47分58秒 |
鹿児島 | 7時11分17秒 | 7時28分55秒 | 10時30分16秒 | 13時30分25秒 | 13時47分50秒 |
那覇 | 7時11分49秒 | 7時29分30秒 | 10時30分37秒 | 13時30分21秒 | 13時47分46秒 |
観察方法
太陽面通過の観察は太陽を観察するのとほとんど同じことです。一つ間違えると失明する危険性もありますので、じゅうぶんに注意しましょう。基本的に、5月21日の金環日食で使った観察方法はそのまま使えます。ただし、日食と違って太陽像を拡大しなければわかりにくい現象なので、木漏れ日などピンホール法による観察は難しいかもしれません。また、日食めがねなどを使って見る場合は、注視しすぎないようにしてください。
- 太陽を直接見てはいけません
- 望遠鏡や双眼鏡を使わずに肉眼で見るだけでも、目に悪影響を及ぼします。たとえ薄曇りであっても、直視するのが危険であることに変わりはありません
- 減光用フィルターも正しいものだけを使ってください
- 一般的な黒い下敷き、サングラス、カラーフィルムの黒い切れ端は使ってはいけません。目に見える光はほとんど通さなくても、目に有害な赤外線や紫外線を透過してしまうからです。
- かつて使われていた太陽観察用のサングラスやフィルターにも、有害な光を通してしまうものや割れる危険性があるものが存在します。とりわけ天体望遠鏡用の減光フィルターは、こうした理由から現在ほとんど市販されていません。
おすすめの観察方法やグッズは次のとおりです。必要な機材はアストロアーツオンラインショップでも取り扱っています。
- 太陽観察専用の天体望遠鏡を使用する
- 投影式なので目を痛める心配がなく、大勢で観察できる組み立て式太陽投影装置「ソーラースコープ」がおすすめです。
- 天体望遠鏡の接眼部の後ろに太陽投影板を取り付ける
- 「太陽投影板」には大勢で見られる、スケッチがとれるといった利点があります。直接太陽を見ないので安全ですが、望遠鏡の口径が大きすぎたり、プラスチックなど熱に弱い素材が使われていると発火のおそれがあります。太陽観察を想定した設計であるか確認した上で、対物レンズの光景は4〜5cm程度まで絞りましょう。また、必ずファインダーの対物側にキャップを付けるか、ファインダー自体を取り外すかしてください。
- 詳しくは「天体観察観測入門:太陽投影板を使った太陽観測」でも説明しています。
- 日食めがねなどを使う
- 「日食グラス」など、5月21日の日食観察で使用した器具がそのまま利用できます(破損などには気をつけてください)。もっとも手軽な方法ですが、太陽の輪郭がぼやけて見える日食めがねを使ったり観察者の視力が悪かったりすると、金星が小さすぎて見えないかもしれません。また、使用上の注意をよく確認して使いましょう。たとえば、日食めがねをかけていても天体望遠鏡や双眼鏡などで太陽を見てはいけません。
- 今年の天文イベントを逃さずチェック
- 「アストロガイド 星空年鑑2012」は、金星の太陽面通過や8月14日の金星食、毎年恒例の流星群など2012年の天文現象が一冊でわかるDVD-VIDEO/ROM付きムック。電子ダウンロード版・iPhone版もあります。
- 2012年の太陽現象Tシャツ(販売終了)
- 5月21日の金環日食を記念したTシャツシリーズ。「A柄」は「金環日食」「金星の太陽面通過」、そして11月14日にオーストラリア北部・南太平洋で見られる皆既日食をデザイン。
現象が起こるしくみ
金星は地球よりも太陽に近いところを回る惑星なので、地球と太陽の間に入り込むことがあります。地球、金星、太陽がこの順番で一直線になる状態を金星の「内合」と呼びます。ただし、金星の公転軌道は地球の公転軌道に対して3度以上傾いているので、内合のたびに地球から見て太陽面通過を起こすわけではありません。
金星の太陽面通過(日面経過などとも呼ぶ)が起こるのは、図のように金星が地球の軌道面を横切る位置にあって、なおかつ内合が起こるタイミングです。これはおよそ243年に4回しかありません。前回の太陽面通過は8年前の2004年6月でしたが、その前はさらに121年半さかのぼった1882年12月のことです。また、2012年6月の次は105年半後の2117年12月になってしまいます。
太陽面通過は、月が太陽の前を通ることで起こる日食とある意味似た天文現象です。ただし、金星の見かけの大きさは月に比べてはるかに小さい(およそ30分の1)ため、注意深く観察しなければまず気づくことはありません。もちろん、太陽の明るさは全くと言っていいほど変わらないので、正しい道具を使い細心の注意を払って観察する必要があります。
天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」では地上から見た現象の様子はもちろん、太陽系視点でシミュレーションして現象のしくみを見ることもできます。
光跡残し機能を使うと、連続撮影の様子をシミュレーションすることも可能です。
関連リンク
- さらに拡大した画像や金星大気の撮影などを、天文雑誌「星ナビ」で紹介
- 月刊星ナビ 2012年6月号
- YouTubeのアストロアーツチャンネルで、解説動画を公開しています
- 2012年6月4日:部分月食 6月6日:金星太陽面通過
- 観察会やプラネタリウム番組などの情報はパオナビで
- パオナビ 「金星の太陽面通過」(関連イベント情報)
- 各地の天文台などが太陽面通過のようすをインターネットで中継します。あいにく曇ってしまったら、ネット中継で楽しみましょう。
- 姫路市「星の子館」 金星太陽面通過インターネット中継
- 投稿画像ギャラリーで、皆さまからお送りいただいた画像を公開
- 2012年6月6日 金星の太陽面通過
- 過去の金星や水星による太陽面通過:
- 関連ニュース
- 06/07 時と空を超えて ゆかりの地・神戸で見た「金星紀行」
- 06/05 ネットで観察会で 各地で見る「金星太陽面通過」
- 06/04 「金星の太陽面通過」楽しみ方直前ガイド
- 06/01 「金星の太陽面通過」を安全に見よう!
- 05/30 観測史上わずか7回目 「金星の太陽面通過」