天の川銀河の2段階の星形成過程を理論的に解明
【2018年7月31日 東北大学大学院理学研究科・理学部】
星を形成する材料は、銀河の外側の宇宙空間に存在する水素を主成分とする低温のガスである。天の川銀河のような渦巻銀河では、この「始原ガス」が銀河円盤に流れ込んで星が誕生すると考えられている。
これまで、銀河円盤に流れ込む始原ガスは、まず銀河に落ち込んで衝撃波によって加熱されて高温となり、その後エネルギーを放出して低温となると考えられてきた。この過程は「冷却流」と呼ばれている。しかし、最近行われた数値シミュレーションで、宇宙初期には衝撃波が発生せず、始原ガスが冷たいまま銀河円盤に流れ込む「冷たい降着流」という現象が起こる可能性が指摘された。
東北大学大学院理学研究科の野口正史さんは、この「冷たい降着流」を理論モデルに組み込み、100億年にわたる天の川銀河の進化を詳しく計算した。
野口さんの計算によると、天の川銀河の星形成は、まず約100億年前に「冷たい降着流」によって始まる。この第一段階の星形成が30億年ほど続いた後、衝撃波が発生してガスが高温になると、ガスの供給が止まってしまい星形成が中断する。この中断期は、約70億年前から50億年前まで続いた。さらにその後、高温ガスからエネルギーが失われるにつれて、「冷却流」による第二段階の星形成が始まる。第二段階の星形成は約50億年前から現在まで続いており、その中で太陽も誕生したと考えられるという。
冷たい降着流に続いて星形成の中断が起こることは他の研究者によって予想されていたが、天の川銀河でそのような2段階の星形成が起こることを理論的に示したのは今回が初めてだ。
この2段階星形成により、天の川銀河に見られる元素組成の異なる2種類の星、「酸素やマグネシウムが豊富な星」と「鉄が豊富な星」の起源を説明することができる。
星に含まれる酸素や鉄などの重元素は、主にII型超新星爆発とIa型超新星爆発によって供給されるが、前者では主に酸素やマグネシウムが、後者では鉄が宇宙空間に放出され、これが次の星に取り込まれる。
II型超新星は星の誕生から数千万年後に、Ia型超新星は10億年ほど経ってから爆発するので、冷たい降着流による第一段階の星形成では、II型超新星爆発からの重元素が相対的に多くなる。これに対して第二段階の星形成では、中断期に起こったIa型超新星爆発によって作られた鉄も多く含まれることになる。ガスの流れが「冷たい降着流」から「冷却流」に切り替わる時期に星形成が休止することで、星の元素組成にギャップが生じると考えられるわけだ。
観測からは、太陽近傍だけでなく銀河内の広い範囲で、元素組成の異なる2種類の星があることがわかってきている。さらに、場所によって星形成の歴史が異なるため元素分布が変わってくる。今回の計算では、こうした点も再現されている。
今回の「冷たい降着流」モデルによれば、質量の大きい渦巻銀河は2段階の星形成を経験するのに対し、質量の小さいものは終始「冷たい降着流」による星形成しか起こらず、星の元素組成は連続的な分布になると予測される。様々な渦巻銀河の観測とモデルの検証により、銀河形成についての理解が進むことが期待される。
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