巨大赤ちゃん星の周りで塩を発見
【2019年2月12日 アルマ望遠鏡】
米・国立電波天文台のAdam Ginsburgさんたちの研究チームが、約1500光年離れたオリオン座大星雲の中にある巨大な原始星「オリオンKL電波源I(アイ)」をアルマ望遠鏡で観測したところ、塩化ナトリウムや塩化カリウムの分子が放つ60もの輝線がとらえられた。
塩が見つかったのは中心星からおよそ45億~90億kmの場所で、存在する塩の総量は地球の海の質量と同じくらいと計算されている。
「塩化ナトリウムは死にゆく星の外層部でしかこれまで見つかっていなかったので、若い星の周りで塩が見つかるとは思っていませんでした。これが何を意味するのか、私たちはまだ完全には理解できていません。とにかく、この星の周りの環境が特殊だということを示しているのだと考えています」(Ginsburgさん)。
詳しい分析の結果、塩化ナトリウムが分布する場所の温度が、約100Kから4000K(摂氏マイナス175度からプラス3700度)という極端に温度差のある環境であることがわかった。研究チームでは、星を取り巻く円盤の中で塵の粒子が互いに衝突し壊れることによって、塵に含まれていた塩化ナトリウムや塩化カリウムが飛び出してきたと推測している。つまり、塩があるところをつきとめれば、星周円盤の広がりがわかるというわけだ。
オリオンKL電波源Iは、非常に活発に星が生まれている場所に位置しており、これまでにもアルマ望遠鏡によって観測されてきた。「この天体はおよそ550年前に母体となったガス雲から秒速10kmの速度で飛び出したと考えられます。その後、他の星と近接遭遇した際に衝撃波が発生し、これによって円盤内の塵の粒子が砕かれて塩化ナトリウムなどの分子が飛び出した可能性があります。他の巨大な赤ちゃん星の周りにも普遍的に塩があるのか、あるいは塩は劇的な過去の証拠なのか、これから調べたいと思っています」(米・コロラド大学 John Ballyさん)。
若い星の周りで塩が見つかったことは、宇宙化学の観点からも興味深い。塩には、ナトリウムやカリウムといった金属元素が含まれているからだ。他にも金属元素を含む分子が存在していれば、星が生まれる領域に含まれる金属量も測定できる可能性がある。「これまで、こうした研究はまったくできていませんでした。宇宙を漂う金属元素は、たいていの場合は電波を出さないからです」(米・国立電波天文台 Brett McGuireさん)。
「次の一歩は、他の領域で塩や金属元素を含む分子を見つけることです。見つかれば、原始惑星系円盤の目印として塩がとても有用だということになりますし、見つからなければ今回の天体がとても特殊だということになります。現在構想が進んでいる次世代超大型電波干渉計「Next Generation Very Large Array」は、塩の研究に適した波長と高い感度とを併せ持っていますから、原始惑星系円盤の研究がさらに大きく進むと思います」(Ginsburgさん)。
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