双子原始星からの不揃いな分子流を検出、連星系形成の謎に迫る
【2019年9月11日 アルマ望遠鏡】
星の多くは連星として誕生するが、その連星がどのように誕生するのかは、実はまだよくわかっていない。
たとえば「乱流分裂モデル」では、星の材料である分子雲が乱流によって複数の分子雲コア(星のたまご)に分裂し、分子雲コア同士が互いに回りあう中で星が生まれ、最終的に連星系ができると考えられている。また「円盤分裂モデル」では、ある原始星を取り巻くガス円盤(原始星円盤)が分裂してもう一つの星を生み出し連星ができると考えられている。これらのモデルの複合的な要因で最終的な連星系ができるという考え方もある。
連星形成のメカニズムに迫るためには、数多くの若い連星系を観測して、特徴を統計的に考察することが重要だ。その際に注目すべき特徴の一つは、原始星の周りにできる「円盤の向き」である。
NEC/東京大学の原千穂美さん、国立天文台の川邊良平さんたちの研究チームは、へびつかい座の方向に存在する双子原始星「VLA 1623A」をアルマ望遠鏡で観測した。この原始星のペアは非常に若く、間隔が数十天文単位と非常に狭いという特徴がある。
その結果、双子原始星のそれぞれから噴き出す、これまで知られていなかった不揃いな分子流が検出された。間隔の狭い連星系で、不揃いな分子流が見つかった例は初めてだ。一般的に分子流は原始星円盤の回転軸方向に飛び出すので、分子流が不揃いということは、それぞれの原始星円盤の回転軸も大きく傾いていることを示していると考えられる。
さらに今回の観測では、分子流の中心部を流れるジェットの構造から、双子原始星の軌道運動に起因すると思われるジェットの波打ち現象もとらえられた。1周期の間隔は約300年で、双子原始星の軌道周期である400~500年とほぼ一致している。
従来、間隔の狭い連星系の多くは円盤分裂によって形成され、円盤の向きは揃っているはずだと考えられてきた。しかし、磁場や乱流など現実的な様々な効果を取り入れた近年の円盤分裂モデルでは、円盤の向きが揃わない可能性も指摘されている。今回のVLA 1623Aの観測結果はこの考え方と合致しているが、乱流分裂モデルの可能性を否定するものでもない。
今後このような観測を増やすことで、連星系形成のモデルの検証が進むと期待される。回転軸が不揃いな円盤からは不揃いな惑星系が生まれてくる可能性もあり、連星系形成の研究から多様な系外惑星系の誕生の謎にも迫ることができるかもしれない。
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