史上2例目、反復型高速電波バーストの源を特定
【2020年1月14日 マギル大学】
高速電波バースト(FRB)は2000年代になって見つかった正体不明の突発現象で、非常にエネルギーの高い電波が数ミリ秒という短時間だけ放射されるものだ。FRBには、同じ位置で電波放射を繰り返す反復型のものと、一度しかバーストが検出されないものがある。いずれも発生メカニズムは謎だが、発生源は天の川銀河よりずっと遠い距離にあると考えられていて、いくつかのFRBでは放射源の位置に銀河が存在することが特定されている。
カナダのドミニオン電波天文台にある「カナダ水素強度マッピング実験望遠鏡(CHIME)」では、2018年夏に運用を開始して以来、多くのFRBを検出してきた。CHIMEは20m×100mのハーフパイプ型の反射板4基からなり、それぞれの反射板の焦点には256個のアンテナが取り付けられている。この形状のおかげでCHIMEはきわめて広い視野を持ち、突発的な電波現象をとらえる能力が従来の電波望遠鏡に比べてはるかに高い。
このCHIMEによって、2018年9月に高速電波バースト「FRB 180916.J0158+65」(以下、FRB 180916)がカシオペヤ座の方向で検出された。これは、CHIMEが初めて発見した反復型のFRBだ。
CHIMEでFRBの観測を行っているプロジェクトでは欧州VLBIネットワーク(EVN)のBenito Marcoteさんたちの研究チームと連携し、EVNに参加するヨーロッパと中国の計8基の電波望遠鏡を使って、2019年6月にFRB 180916を極めて高い分解能で追観測した。
その結果、FRB 180916の放射源が、約5億光年彼方の渦巻銀河「SDSS J015800.28+654253.0」付近の直径約7光年の範囲にまで絞り込まれた。研究チームはさらに米・ハワイのジェミニ北望遠鏡を使って放射源の撮像と分光観測を行い、この銀河の渦巻腕にある星形成領域がFRB 180916の発生源であることを確認した。
反復型FRBの母天体を特定できたのはこれが世界で2例目だ。最初に母天体が特定された反復型FRB「FRB 121102」の場合、重元素量の少ない矮小銀河の中で電波バーストが起こっていた。今回の母天体は大きな渦巻銀河で、1例目の母天体とはかなり性質が異なっている。
FRB 180916の母天体である渦巻銀河までの距離は、最初に母天体が判明したFRB 121102の矮小銀河に比べて7分の1と非常に近い。反復型ではないFRBの母天体もいくつか特定されているが、それらは今回の銀河より10倍以上も遠くにある。FRB 180916を利用すればFRBをさらに詳細に研究でき、正体不明のFRBのメカニズムを絞り込めるかもしれない。「今後、FRB 180916の放射源からX線や可視光線といった他の波長での放射も検出できるかもしれません。そうなれば、FRBの発生モデルをぐっと絞り込むことができるでしょう」(マギル大学 Victoria Kaspiさん)。
〈参照〉
- McGill Newsroom:A fast radio burst tracked down to a nearby galaxy
- Gemini Observatory:Fast Radio Burst Observations Deepen Astronomical Mystery
- Nature:A repeating fast radio burst source localized to a nearby spiral galaxy 論文
〈関連リンク〉
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