16日周期のパターンを持つ高速電波バースト
【2020年6月23日 マサチューセッツ工科大学/マギル大学】
高速電波バースト(FRB)は、数ミリ秒というごく短い時間に銀河1個分の光度をも上回る強いエネルギーの電波を放出する突発現象だ。2007年以来これまでに100件以上のFRBが観測されており、その発生源は天の川銀河の外の遠方宇宙だと考えられているが、はっきりとはわかっていない。
ほとんどのFRBは一度きりの現象だが、同じ位置で複数回のバーストが観測された例もいくつかある。2018年9月に初めて検出された「FRB 180916.J0158+65(以下、FRB 180916)」もそうした反復型FRBの一つだ。このFRBは追観測によって、カシオペヤ座の方向約5億光年の距離にある渦巻銀河の星形成領域に放射源があることが突き止められている(参照:「史上2例目、反復型高速電波バーストの源を特定」)。
FRB 180916を検出したのは、カナダ・ドミニオン電波天文台にある「CHIME(カナダ水素強度マッピング実験)」と呼ばれる観測装置だ。CHIMEでFRBの検出を行っている研究チーム「CHIMEコラボレーション」は今回、FRB 180916のバーストの反復に規則正しいパターンがあることを発見した。
このFRBはまず4日の間に1、2回のバーストをランダムに起こし、続いて電波をまったく放射しない期間が12日間続く。この16日周期のパターンが繰り返されるのだ。研究チームは2018年9月から2020年2月までの500日以上にわたり、FRB 180916がこのパターンでバーストを起こすのを38回も検出した。
「このFRBはまるで時計仕掛けのようです。FRBで見られるパターンとしてはこれまでで最も確実性があります。FRBが強い電波を放射する原因となる物理を突き止める上で、この天体は大きな手がかりになります」(米・MITカブリ天体物理学宇宙研究所 Kiyoshi Masuiさん)。
この規則正しいリズムの裏にどんな現象があるのかは大きな謎である。一つの可能性は、中性子星のような単独のコンパクト天体で周期的なバーストが起こるというものだ。自転する天体表面の決まった場所で電波が発生していて、天体の自転軸が16日間のうち4日だけ地球の方向を向くとすれば、今回のパターンのような現象が見られるはずと考えられる。
もう一つの可能性は、中性子星が別の中性子星やブラックホールと連星になっているというモデルだ。片方の中性子星がもう一方の天体に接近するような楕円軌道を公転していると、潮汐力によって星が変形し、2天体が近点ですれ違うたびにバーストを起こすかもしれない。
研究チームでは第3のシナリオも考えている。中心星の周りを回る伴星が電波を放射していて、中心星から吹き出した恒星風やガス雲の中を伴星が通過するときに、ガスがレンズのように伴星の電波を強めてバーストが観測されるというものだ。
さらに、最もわくわくするアイディアとして「マグネター」がFRBの発生源だという説もある。マグネターはきわめて強い磁場を持つ中性子星で、詳しい性質はいまだ不明だが、マグネターが電波など様々な波長の電磁波という形で莫大なエネルギーを放射する例は知られている。
「研究者はマグネターにどうやってFRBを起こさせるかという問題にずっと取り組んできました。今回観測されたFRBの周期性も、全てをうまく説明できるよう、モデルに組み込んで検討されています」(Masuiさん)。
ごく最近、研究チームではまさにマグネターがFRBの発生源であるというモデルを支持する新たな観測結果を得ている。4月後半、CHIMEでは地球から3万光年の距離にあるマグネターのフレアに由来するFRBと思われる信号を検出した。この信号が本物だと確認されれば、天の川銀河の中で発生したFRBの初検出となるだけでなく、マグネターがFRBの源だというこれまでで最も強い証拠になるだろう。
〈参照〉
- MIT:Astronomers detect regular rhythm of radio waves, with origins unknown
- McGill University:Discovery of a fast radio burst that pulses at regular intervals
- Nature:Periodic activity from a fast radio burst source 論文
〈関連リンク〉
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