すばるが解明、謎の高速電波バーストの母銀河は50億光年彼方

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すばる望遠鏡が「高速電波バースト」と呼ばれる新種の天体現象を追観測し、この現象が起こったとみられる母銀河を発見した。また、その距離が地球から50億年であることも明らかにした。

【2016年2月25日 東京大学すばる望遠鏡

数年前に発見されたばかりの「高速電波バースト(Fast Radio Burst、FRB)」という謎のフラッシュ現象は、継続時間がわずかに数ミリ秒(1ミリ秒=1/1000秒)と極めて短く、全天で一日あたり数千回発生していると言われている。観測された電波の特徴から、50~100億光年という宇宙論的な遠距離からやってきていることが示唆されていたが、直接的な距離測定はこれまで例がなかった。

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の戸谷友則さんたちは、すばる望遠鏡を用いてFRBを追観測する日本チームを立ち上げ、FRBを検出しているオーストラリアのパークス電波天文台との共同観測プロジェクトを始めた。

2015年4月18日、おおいぬ座付近で発生したFRBをパークス電波天文台で検出した。発生後数日以内にすばる望遠鏡で該当する天域を撮像したものの、その時点ではFRBに関係すると思われる変動天体は見つからなかった。後日、別のグループがFRB発生後数日間のうちに暗くなった電波天体に気づき、あらためてすばる望遠鏡の画像を見直したところ、まさにその場所に銀河が見つかった。この銀河こそがFRBの母銀河と考えられる。さらに、すばる望遠鏡による分光観測から赤方偏移(天体の距離の指標で、値が大きいほどより遠い)の値がz=0.492と測定され、距離が約50億光年と求められた。この値は分散指標と呼ばれる別の手法による予想とよく一致する。

高速電波バーストの母銀河とそのスペクトル
(左上)パークス電波天文台が観測した全領域。月の画像は領域の広さを示すために合成。(右)左上パネルの拡大図。2、3枚目はすばる望遠鏡でとらえたFRB母銀河。(下)すばる望遠鏡でFRB母銀河を分光したスペクトル(提供:Nature、東京大学、パークス電波天文台、すばる望遠鏡)

この研究成果は、宇宙論的な問題にも重要な示唆を与えている。宇宙に存在する既知の元素からなる通常物質(バリオン)の平均密度は、最新データに基づく宇宙モデルから理論的に見積もられているが、銀河にとりこまれ星や星間ガスになっているバリオンは、この10%程度しかない。残る90%は銀河間空間にガスとして存在すると考えられているが、その半分以上は未だ観測的には検出されておらず、「ミッシングバリオン問題」と呼ばれていた。

今回のFRBの分散指標は銀河間空間のバリオン中の電子によるものなので、測定された分散指標と赤方偏移から決まった距離とを使うと、銀河間空間の電子密度が割り出せる。その密度は、宇宙論から予想されるバリオン密度によく一致した。つまり本研究により、銀河間空間に宇宙論が予想するとおりの密度でバリオンが存在していることが実証され、ミッシングバリオン問題が解決したと言えるわけだ。

FRBの正体が何なのかを明確に決定するには、今後さまざまな観測が必要だ。FRBが本当に宇宙論的遠方で起こっている爆発現象であることを明らかにした本研究成果を契機として、今後はこの謎に満ちた新種の天体現象の研究が世界的にますます活発化することだろう。