彗星の色の変化を追いかける

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探査機「ロゼッタ」により得られた2年分のデータから、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の色が太陽からの距離によって変化していたことが示された。太陽から遠い時にはコマが青く核は赤く、太陽に近づくとその反対になっていたようだ。

【2020年2月13日 ヨーロッパ宇宙機関

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」は、2014年からおよそ2年間にわたってチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)を観測し、2016年9月に彗星に制御衝突してミッションを終了した。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の大きさは約3kmほどしかないため、地上から彗星の核を観測することは難しく、長期的な変化を追い続けるのも難しいが、ロゼッタの膨大な観測データによって彗星の変化とその過程の理解が進んでいる。

ロゼッタが撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
2015年7月7日に「ロゼッタ」が154km離れたところから撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(提供:ESA/Rosetta/NAVCAM)

ロゼッタに搭載されていた観測機器の一つ、可視赤外撮像分光計「VIRTIS」は、彗星の核表面の固体の性質や温度を調べるための機器だ。伊・宇宙物理国立研究所のGianrico FilacchioneさんたちVIRTISチームは2年間で得られた4000以上の観測データを分析し、彗星の変化を追いかけた。

ロゼッタがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着した2014年8月には、彗星は太陽から5.4億km離れた遠い位置にあった。このとき彗星の表面はダストの層で覆われていたため、氷はほとんど見えず、VIRTISで観測すると彗星の表面は赤く見えていた。

その後、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星が太陽に近づくと、彗星の表面の色が青く変化している様子がVIRTISによって明らかとなった。太陽から約4.5億km離れた「雪線」を越えて彗星が内側に入ってくると、太陽の熱によって水の氷が昇華し気体となる。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星でも地表下に隠れていた氷が昇華し、水の氷が存在することが確認された(参照:「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星表面の氷は水と確認」)。これが彗星の表面の色の変化としてとらえられたのだ。

色の変化は彗星の表面だけではなく、彗星の周りでも起こっていた。彗星が太陽から遠く離れているときには、彗星の核の周囲に広がるコマにダストはほとんどなく、水の氷が含まれていたため、VIRTISでは青く見えていた。彗星が雪線を越えるとダスト中の水の氷は急速に昇華して失われ、ダストだけが残される。そのため、彗星が太陽に近づくにつれてVIRTISでは赤く見えるようになり。彗星が再び太陽から遠ざかっていくと、また核が赤く、コマが青くなっていった。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の色の変化
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の色の変化を表したイラスト。太陽から遠いとき(左の2つ)は彗星の核が赤く周囲は青い。太陽に最接近したときには彗星の核が青く周囲は赤く見える(提供:ESA)

スペクトル分析によると、ダストの赤い色は炭素を含む有機分子に由来するものとみられているが、それが何であるかを知るためには彗星表面の物質を採ってこなければならない。それが可能になるまでは、VIRTISをはじめとする探査データを使用してチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を調べ続けていくことになる。「ロゼッタによる探査は終了しましたが、分析はまだまだ続きます。わくわくするような結果が、もっとたくさんあるはずです」(ESAロゼッタプロジェクト Matt Taylorさん)。

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