チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星表面の氷は水と確認
【2016年1月14日 ヨーロッパ宇宙機関/Phys.Org/ESA - Rosetta Blog/DLR】
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」は2014年の夏にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)に到着し、周囲を飛行しながら観測を行っている。到着後間もなく取得した赤外線観測データの分析から、可視光線で明るく見えていた「イムホテプ(Imhotep)」領域中の幅数十mほどの2地点に、水の氷が含まれていることが確認された。彗星から噴き出すガスの主成分は水蒸気だが、水の氷は地表下にあると考えられており、表面にはほとんど見られない。
それぞれの地点で純粋な水の氷は約5パーセントを占め、残りはすべて暗く乾燥した物質だった。さらに、氷の粒子には2種類あることがわかった。一つは大きさが直径数十μm、もう一つは約2mmだ。
一方、アヒルのような形をした彗星の首の部分にあたる「ハピ(Hapi)」領域で見つかった粒子は大きさが数μmしかない。「さまざまな大きさの氷の粒子が示唆しているのは、形成メカニズムと形成されるまでの時間的スケールの違いです」(伊・国立宇宙物理研究所 Gianrico Filacchioneさん)。彗星の一日(自転周期)は12時間ほどで、ハピにあるとても小さな粒子は、日々起こる氷の循環(凝結)によってできる薄い霜の層と関係しているという。
「それとは対照的に、数mmサイズの粒子はゆっくりと時間をかけてできたようで、それがときどき侵食によって露出するのです」(Gianricoさん)。マイクロメートルサイズの粒子が典型的なサイズだと仮定すると、観測されたミリメートルサイズのものは、焼結や太陽の熱による昇華といった二次的な氷の結晶の成長で説明できる。
研究者たちは現在、彗星が太陽に近づいた昨年の夏ごろに得られたデータの分析を進めており、熱の増加で表面に露出した氷がどのように変化したのかを調べている。
一方、2014年11月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の表面に投下された着陸機「フィラエ」は、太陽光の届かないところに入ってしまい、着陸後しばらくしてから冬眠モードになっていた。その後、彗星が太陽に近づいて太陽電池が再充電され、昨年6月にフィラエは目を覚ました。ロゼッタを介して断続的に8回の通信を行ったものの、7月9日に再び交信が途切れている。
今年1月10日、フィラエの太陽電池パネルに積もった塵をふるい落としたりパネルを太陽の方向に向けたりするコマンドが送信された。しかしやはり、交信はなかった。「残念ながら通信再開にはつながらず、フィラエからは何の信号も届きませんでしたが、あと数回コマンドを送信する予定です」(ドイツ航空宇宙センター Stephan Ulamecさん)。
今後、彗星は太陽からどんどん遠ざかり、状況は悪くなるばかりだ。1月の末には彗星は太陽から約3億kmも離れてしまう。表面温度が摂氏マイナス51度以下になると、フィラエは二度と作動できなくなる。
ロゼッタ自体のミッションは9月末まで続くが、フィラエについては相当厳しい状況となっているようだ。「1月末までに応答がなければ、終わりです」(ロゼッタのプロジェクトマネージャー Philippe Gaudonさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関: EXPOSED ICE ON ROSETTA’S COMET CONFIRMED AS WATER
- フィラエ:
- Phys.Org: Time running out for comet probe Philae
- ESA - Rosetta Blog: Philae status report: “Time is running out”
- DLR: New command for Philae
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ宇宙機関: http://www.esa.int/
- アストロアーツ:
- 星空ガイド: 天文の基礎知識 彗星
- 投稿画像ギャラリー: 彗星・小惑星
- チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
- 星ナビ.com:
- 2015年6月号 特集「彗星核の「芯」に迫る」
- こだわり天文書評:
〈関連ニュース〉
- 2015/11/02 - 探査機ロゼッタ、彗星に大量の酸素分子を検出
- 2015/09/28 - 彗星で起こる水の氷のサイクル
- 2015/08/17 - 太陽に最接近したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
- 2015/08/07 - 探査機ロゼッタの彗星到着から1年
- 2015/07/14 - 彗星着陸機フィラエから再通信
- 2015/06/25 - チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の表面に水の氷
- 2015/06/15 - 史上初の彗星着陸から7か月 「フィラエ」からの信号を受信
- 2015/06/05 - ロゼッタ、彗星のコマで起こる分子分解プロセスを解明
- 2015/01/23 - 「ロゼッタ」が見た、彗星活動が刻む模様
- 2014/12/12 - チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星、地球と異なる水の起源
- 2014/11/19 - フィラエが地球へ送信したデータの分析進められる
- 2014/11/17 - 彗星表面の直接探査に成功 大任果たしフィラエ冬眠
- 2014/11/14 - 彗星表面からフィラエが見た初めての景色
- 2014/11/13 - 史上初の快挙、フィラエが彗星表面に着陸
- 2014/11/12 - フィラエ分離成功 史上初彗星着陸の報は深夜1時ごろ
- 2014/10/17 - 探査機ロゼッタ、彗星と自撮り2ショット
- 2014/10/06 - 迫力満点、「ロゼッタ」が間近で見た彗星ジェット
- 2014/09/17 - ロゼッタの着陸機フィラエ、降下場所は彗星の「アヒルの頭」
- 2014/08/27 - 史上初の彗星着陸に向け、探査機ロゼッタが調査中
- 2014/08/06 - 探査機ロゼッタがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着
- 2014/07/18 - チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星はアヒル型
- 2014/07/01 - チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星、1秒にコップ2杯の水を放出
- 2014/05/20 - 探査機ロゼッタがとらえたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
- 2014/01/21 - 画期的彗星探査に向け、探査機ロゼッタが冬眠から復帰
〈関連製品・商品〉
関連記事
- 2020/11/05 彗星のどくろマークはフィラエが弾んだ跡
- 2020/09/28 彗星でも「オーロラ」が発生する
- 2020/02/13 彗星の色の変化を追いかける
- 2020/01/30 彗星と星形成領域にリンを含む分子を検出
- 2017/10/11 地球外生命の指標として不適格か、赤ちゃん星にもクロロメタンが存在
- 2017/06/13 彗星からキセノン検出、太古の地球大気と関係
- 2017/01/24 超小型探査機「プロキオン」、彗星の水の謎を解明
- 2016/10/03 ロゼッタ、彗星に衝突しミッション終了
- 2016/09/29 ロゼッタのグランドフィナーレ、30日に彗星衝突
- 2016/09/07 行方不明だった「フィラエ」が見つかった
- 2016/08/09 「フィラエ」が運用終了 史上初の彗星着陸探査
- 2016/05/30 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星にアミノ酸やリンを検出
- 2016/05/18 銀河群観測の画像に偶然写り込んだチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
- 2015/11/02 探査機ロゼッタ、彗星に大量の酸素分子を検出
- 2015/10/16 日本の宇宙望遠鏡「LAICA」、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の撮影に成功
- 2015/09/24 彗星で起こる水の氷のサイクル
- 2015/08/17 太陽に最接近したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
- 2015/08/07 探査機ロゼッタの彗星到着から1年
- 2015/07/14 彗星着陸機フィラエから再通信
- 2015/06/25 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の表面に水の氷