彗星のどくろマークはフィラエが弾んだ跡
【2020年11月5日 ヨーロッパ宇宙機関】
2014年から2016年までチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)の周回探査を行ったヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ロゼッタ」は、2014年11月に子機「フィラエ」を彗星に向けて投下した。フィラエは史上初となる彗星への着陸を成功させたものの、固定には失敗し、2回バウンドして予定位置から離れた場所に着地した。その後、通信不能となり22か月間行方不明だったが、ロゼッタ自体が探査計画を終える数週間前になってから見つかった。
これまでにフィラエの経路はほとんど解明されていたが、2回目に彗星にぶつかって跳ね返った地点だけはわかっていなかった。ESAのLaurence O'Rourkeさんはロゼッタとフィラエ両方の機器からのデータを収集し、2回目のタッチダウン地点を探し始めた。「フィラエのセンサーは表面を掘り返したことを示していました。つまり、その下に隠された数十億年前の原始の氷を露出させた可能性が高いため、タッチダウンの場所を見つけることは重要でした」(O'Rourkeさん)。
フィラエが彗星に残した足跡を確認するにあたってはロゼッタのカメラが不可欠だったが、フィラエの磁力計「ROMAP」も重要な役割を果たした。彗星の磁場を測定するように設計されていたROMAPだったが、センサーは機体から48cm突き出た棒の先端にあるため、フィラエが彗星にぶつかるたびに測定値が大きく変動している。これにより、フィラエが彗星の氷に押しつけられた時間やその際の加速度を見積もることができた。
データによれば、フィラエは2回目のタッチダウン地点に2分近くとどまり、その間に少なくとも4回は地表に接触したようだ。そのうち1回は氷の裂け目に25cmほど沈みこんでおり、ロゼッタが撮影した画像でフィラエの形に沿っていることがわかるほどくっきりした痕跡を残している。磁力計のデータから、このくぼみを作るのに3秒かかったことも明らかとなった。
「フィラエがぶつかった岩の形は上から見たときにどくろを思い起こさせたので、この領域を『どくろ峰(skull-top ridge)』と呼ぶことにしました」(O'Rourkeさん)。どくろの「右目」に当たる部分はフィラエの衝突によって開眼したようだ。約3.5m2の領域で新鮮な氷が露出したので、周りに比べてはるかに明るく輝いていた。
フィラエがぶつかった地点は氷の裂け目が露出している部分だったので、タッチダウンの様子を分析することで、彗星の内部がどれだけ柔らかいかを検証することもできた。O'Rourkeさんによれば、この氷と塵の混合体はカプチーノの泡や泡風呂、波打ち際の泡よりもふんわりとしているという。これは構造が「すかすか」であることを意味しており、体積のうち空隙が占める割合は75%と見積もられた。この数値は彗星全体について測定した別の研究と一致しており、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星が約1mスケールの細部に至るまで均一であることを示している。
彗星の内部がこれだけやわらかいという事実は、将来表面に着陸したりサンプルを回収したりする際に考慮する必要がありそうだ。
〈参照〉
- ESA:Philae’s second touchdown site discovered at ‘skull-top’ ridge
- Nature:The Philae lander reveals low-strength primitive ice inside cometary boulders 論文
〈関連リンク〉
- ロゼッタ
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)
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