太陽に最接近したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
【2015年8月17日 ヨーロッパ宇宙機関 (1)/(2)/NASA JPL】
約6.5年周期で太陽系を公転しているチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)が、先週13日の午前11時ごろ(日本時間)に太陽に1.9億kmの距離まで最接近した。太陽最接近(近日点通過)の数時間前にESA(ヨーロッパ宇宙機関)の彗星探査機「ロゼッタ」が撮影した一連の画像には、彗星の核から噴き出す複数のジェットがとらえられている。
ロゼッタによる計測で、彗星から最大で毎秒300kgの水蒸気が噴き出しているとみられている。これはロゼッタが彗星に到着した約1年前の観測量の1000倍にあたる。また、彗星の核からはガスとともに毎秒1000kgの塵が噴き出していると計算されている。彗星の表面温度にも変化が見られ、1年前には摂氏マイナス70度だったが4月から5月には摂氏マイナス数度まで上昇しており、来月には摂氏数十度に達すると予測されている。
ロゼッタは彗星に接近しているため尾が成長して伸びていく様子を見ることはできないが、地上では数か月前から世界中で望遠鏡を使った観測が行われており、尾はすでに12万km以上にも伸びていることがわかっている。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の近日点通過の約半月前にも、ロゼッタは活発化した彗星の活動を目撃していた。わずか36分の間に激しい噴出が起こり、止んでしまったのだ。ジェットの速度は秒速10m以上とみられている。
「通常、ジェットは彗星の核に比べると非常にかすかで、その姿を見るには画像のコントラストを高くする必要があるのですが、これのジェットは核よりも明るいものでした」(独・マックスプランク太陽系研究所 Carsten Guttlerさん)。
ジェットの噴出直後、ロゼッタの各種センサーが彗星のコマの著しい変化を検出している。ガス中の二酸化炭素やメタンなどは2日前に比べて数倍に増加し、塵の個数や速度も同様に1か月前と比べて数倍に上昇していた。噴出によって彗星核の周囲にある太陽風磁場が押し留められたらしいことも明らかになっている。
複数の機器が取得したデータの分析には時間を要するだろうが、これからも様々なことが明らかにされるだろう。さらに、彗星の活発な活動は今後数週間にわたって続くとみられており、新たなジェット噴出などもあるかもしれない。近日点通過という最もエキサイティングなときは過ぎたが、彗星探査はまだまだ続く。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関:
- NASA JPL: Rosetta Comet Outburst Captured
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ宇宙機関: http://www.esa.int/
- アストロアーツ:
- 星空ガイド: 天文の基礎知識 彗星
- 投稿画像ギャラリー: 彗星・小惑星
- チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
- 星ナビ.com:
- 2015年6月号 特集「彗星核の「芯」に迫る」
- こだわり天文書評:
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