矮小銀河の衝突が天の川の星形成を促し、太陽も誕生させた可能性
【2020年5月29日 ヨーロッパ宇宙機関】
いて座矮小銀河(いて座矮小楕円銀河とも)は、天の川銀河の周りを回っているのに1990年代まで存在が知られていなかった小規模な銀河である。この小さな銀河は過去に繰り返し天の川銀河の円盤を突き抜け、天の川銀河の星の動きに深い影響を及ぼしたことが示唆されている。天の川銀河のトレードマークである渦巻きも、いて座矮小銀河が繰り返し衝突した結果形成されたのだと主張する論文もあるほどだ。最新の研究によれば、その衝突のたびに天の川銀河で大量の星が生まれており、我々の太陽もその一つかもしれないとのことである。
スペイン・カナリア天体物理研究所(IAC)のTomas Ruiz-Laraさんたちの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」が集めたデータをもとに、太陽を中心とした半径6500光年の球内にある星の光度、距離、色を調べた。そこから導き出される星々の年齢から、57億年前、19億年前、10億年前という3回のタイミングに星形成が促進されていた時期があることが判明した。
一方、いて座矮小銀河が天の川銀河へ衝突したのも3回で、最初は50億から60億年前、2度目が約20億年前、3度目が10億年前ごろとされている。星形成が促進されていた時期と、見事なまでの一致だ。
「天の川銀河では最初に爆発的に星が生まれる時期がありましたが、やがて安定した状態になり一定のペースに落ち着きました。ところが、いて座矮小銀河が突然落ちてきて平衡状態が崩れます。するとそれまで静止していたガスや塵が、水面の波紋のように跳ね上がったのです」(Ruiz-Laraさん)。
こうして天の川銀河の中に波紋が広がると、ガスや塵が押し寄せた部分で星の誕生が促進されたのだという。研究チームは、いて座矮小銀河が天の川銀河における星の形成に大きく寄与したのではないかと考えている。反対に、衝突のたびにいて座矮小銀河からはガスや塵がはぎとられ、小さくなっていった。
いて座矮小銀河がぶつかっていなければ、私たちの太陽系も誕生しなかったかもしれない。「太陽は、いて座矮小銀河が初めて天の川銀河を通過したときの影響で星々が誕生していた時期に生まれました。太陽の材料となったガスと塵を収縮させた原因がいて座矮小銀河かどうかはわかりません。しかし、太陽の年齢はいて座矮小銀河の影響で生まれた星と一致するので、ありうる話です」(IAC Carme Gallartさん)。
データからは、いて座矮小銀河が数億年前に再び天の川銀河の円盤を突き抜けた可能性が示唆されている。実際、新たな研究によれば最近になって星の形成率が増加しており、現在の天の川銀河で星のベビーブームが進行しているかもしれない。
「ESAの天文衛星『ヒッパルコス』(1989年打ち上げ)が1990年代初期に取得した観測データをもとに、天の川銀河における星形成の歴史はいくらか特定されていました。しかし、その観測は太陽のごく近傍に限定されていて、銀河全体を代表するものではなく、今私たちが見ている爆発的な星形成を明らかにすることはできなかったのです。2013年に打ち上げられたガイアの観測データが2016年と2018年に公開されたおかげで、私たちは今まさに初めて、天の川銀河における星形成の詳細な歴史を見ているのです」(ガイア・プロジェクトサイエンティスト Timo Prustiさん)。
〈参照〉
- ESA:Galactic crash may have triggered Solar System formation
- Nature Astronomy:The recurrent impact of the Sagittarius dwarf on the Milky Way star formation history 論文
〈関連リンク〉
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