日本の「SLIM」が月面着陸に成功、世界5か国目の快挙

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JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」が月面への着陸に成功した。軟着陸の成功は世界で5か国目だ。着陸後に太陽電池が発電しておらず、活動時間は限られる見込みだが、着陸までの画像データ等は全て受信を完了している。

【2024年1月22日 JAXA

1月20日0時20分(日本時間)、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が月の「神酒の海」の西にある「シオリ(Shioli)」クレーター付近(東経25.2度、南緯13.3度)に軟着陸した。着陸後もSLIMとの通信は正常に行えており、機体は健全だと考えられる。

SLIMは2023年9月7日にH-IIAロケット47号機によって、X線分光撮像衛星「XRISM」と相乗りで打ち上げられ、12月25日に月周回軌道に投入された。月面への軟着陸成功は日本初で、世界では旧ソ連・米国・中国・インドに次ぐ5か国目の快挙となる。

SLIM
「SLIM」の模型。実際の探査機は、全長1.7m×幅2.7m×高さ2.4mで、打ち上げ時の重量は約700kgとなる。最終降下段階では2機のメインエンジンを下にした姿勢で垂直に降り、着地後に倒れ込んでほぼこの姿勢で静止する(撮影:中野太郎)

SLIMは月面に垂直降下する最終段階で、高度約2mに達したところで2機の小型ローバー「LEV-1」「LEV-2」を分離することになっている。LEV-1は地球と直接通信する仕様になっており、分離後にLEV-1からの電波も正常に受信できていることから、両機の分離は正常に行われたとみられる。

第2管制室
SLIMが月面に着陸した瞬間の第2管制室の様子。1月20日0時20分07秒(日本時間)、SLIMが垂直降下モードから月着陸モードに切り替わり、着陸が確認された。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

ただし、着陸直後から、それまで正常に発電していたSLIMの太陽電池パネルが電力を発生しなくなっていることが判明した。そのため、着陸後のSLIMは内蔵バッテリーのみで活動する状態になった。プロジェクトチームでは、SLIM内部のヒーターをオフにするなどしてバッテリーの残量を節約しながら、SLIMに保存されているデータを地球に送信する作業を行った。必要なデータは全て受信を完了し、着陸から2時間37分が経った同日2時57分、バッテリー残量が12%となった時点でバッテリーの電気的接続を切断し、探査機の電源をオフにした。

現在プロジェクトチームは、SLIMから受信したデータの解析を行っている。特に、降下の際に月面を撮影してクレーターを検出し、自律的に軌道を修正する「画像照合航法」に使った画像データなどが重要だという。また、LEV-1, 2が正常に動作していればSLIMを撮影しているはずなので、それらの画像データも受信できている可能性がある。

さらに、SLIMミッションでは多波長分光カメラを使い、シオリクレーターの周辺に存在する月のマントル物質を撮影するという科学観測も予定されていた。こうした科学データも受信データに含まれているかもしれない。

記念撮影
SLIM着陸成功後の記者会見での記念撮影。右から、山川宏さん(JAXA理事長)、國中均さん(JAXA理事・JAXA宇宙科学研究所長)、藤本正樹さん(JAXA宇宙科学研究所副所長)(撮影:中野太郎)

着陸後の記者会見で、JAXA宇宙科学研究所の國中均所長は、太陽電池のトラブルについて「探査機の他の部分は正常に機能しており、温度や圧力など、全てのデータが健全な数値で受信できていることから、太陽電池だけが故障などを起こしたとは少し考えにくい。探査機が予定通りの姿勢を向いていないために太陽電池パネルに太陽光が当たらない状態などが考えられる」と述べた。

その後のテレメトリーデータの解析などから、現在のSLIMは太陽電池パネルを西に向けた姿勢になっていることがわかっており、そのために太陽光が太陽電池に当たっていないようだ。月面での1日は約1か月で、着陸直後のSLIMは月面の「朝」を迎えた領域にいるが、数日経てば太陽が東の空から西へと移動する。そうすれば再び太陽電池が発電を始め、探査機を再起動できる可能性がある。プロジェクトチームはこの復旧運用に向けた準備も進めているという。

SLIMミッションでは、月着陸機としては世界で初めて、目標とする着陸地点に誤差約100mの精度で着陸する「ピンポイント着陸」を目指している。実際にどのくらいの着陸精度を達成できたかについては、確認に1か月程度かかる見込みだが、SLIMが地球に送信した電波を詳しく分析することでSLIMの着陸位置を精密に決定でき、そのために必要なデータは内蔵バッテリーでの活動時間内にほぼ取れるという。また、月を周回しているNASAの探査機「ルナー・リコナサンス・オービター(LRO)」が着陸地点付近を定期撮影する画像を活用することも考えられるという。

JAXAの山川宏理事長は、「SLIMが着陸し、通信ができていることから、最低限の成功はできたと考えている。今後の月面へのアクセスに道を開くものだ。将来の各国との国際協力でも、日本として様々な知見を提供できる」と感想を述べた。

國中所長は、「テレメトリーデータをリアルタイムで動画配信するといったアウトリーチもうまくできた。SLIMが予定通りの軌道を描いていた状況を見る限り、100m精度でのピンポイント着陸もほぼ達成できただろうと個人的には考えている。日本は今後も続々と月へ探査機を送る計画があり、火星系を目指す「MMX」も控えている。SLIMの技術は、アルテミス計画が提唱している『Moon to Mars(月から火星へ)』の活動においても日本として大きな布石を置けた、大変大きな一歩だ」と語った。

JAXA宇宙科学研究所の藤本正樹副所長は、「オンライン番組の英語チャンネルも全世界で数万人が視聴してくださり、大変嬉しかった。我々は宇宙科学としてやるべきことをやっているが、皆さんに応援していただくことでより頑張れる。SLIMはかなり難しいミッションだが、ここまで来られたのは応援してくださった皆さんのおかげだと思っている」と述べた。

小型月着陸実証機SLIM ピンポイント月着陸ライブ・記者会見(提供:JAXA)

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