惑星誕生領域で初めてメタノールを発見
【2016年6月17日 アルマ望遠鏡】
地球から約170光年の距離にあるうみへび座TW星は、惑星が誕生する円盤(原始惑星系円盤)を持つ星としては最も地球に近い星であり、40億年以上前の太陽系とよく似ていると考えられている。
オランダ・ライデン天文台のCatherine Walshさんたちの研究チームがアルマ望遠鏡を使ってこの星を電波観測したところ、星の周りの原始惑星系円盤に気体状態のメタノールが検出された。メタノールはメタンをもとにして作られる分子で、原始惑星系円盤で見つかったものとしてはこれまでで最も大きな有機分子だ。
メタノールの発見をもとに、誕生したばかりの赤ちゃん惑星にどのようにして有機分子が取りこまれていくかという研究が大きく進むと期待される。メタノールはアミノ酸のようなさらに複雑な有機分子の材料にもなりうることから、生命誕生に必要な物質を作りだすための化学反応を理解する上でも重要な発見である。
さらに、中心の星の直近にメタノールが集中しているほか、半径30天文単位と100天文単位のところにリング状に分布していることもわかった。メタノールは円盤に含まれる塵の粒子の表面で作られ、その後表面から離脱することで気体の状態になると考えられているが、うみへび座TW星の場合、中心星から遠くて温度が低く、普通であればメタノールが塵の表面に凍りついているはずの場所でも気体状態のメタノールが存在していた。
この理由については、メタノールは単に塵の温度が上がって昇華したのではなく、星から降り注ぐ高エネルギーの紫外線光子によって叩き出され気体状態になったのではないかと考えられている。こうした研究により、星間空間におけるメタノールの気化のメカニズムや、より一般的な宇宙での化学反応についても理解が進むだろう。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡: 惑星誕生領域で初めてメタノールを発見
- The Astrophysical Journal Letters: First detection of gas-phase methanol in a protoplanetary disk 論文プレプリント
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡: http://alma.mtk.nao.ac.jp/
- 星ナビ.com こだわり天文書評:
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