「宇宙の氷」で大マゼラン雲を探る

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超大型望遠鏡「VLT」と赤外線天文衛星「あかり」による観測で、大マゼラン雲中の原始星の周囲に氷の状態の水やメタノールが検出され、大マゼラン雲では天の川銀河と比べてメタノールの氷の存在量が低いことが明らかになった。

【2016年3月8日 東北大学

星や惑星の材料となるガスや塵(宇宙塵)といった物質は、銀河中の分子雲に存在する。分子雲の大部分は、一般的に摂氏約マイナス260度以下と極めて低温であるため、塵の表面に様々な原子・分子が吸着している。このような物質は星間氷と呼ばれ、地球の雲の中で雪ができるのと似たメカニズムで生成されると考えられる。星間氷は、星や惑星の材料となる物質の化学的進化において重要なもので、特に水や有機分子といった、生命にとって不可欠な物質が星間空間で生成される際に中心的な役割を果たすと考えられている。

東北大学、東京大学、仏・パリ第11大学の研究者からなる国際研究チームは、ヨーロッパ南天天文台が南米チリに持つ超大型望遠鏡VLTを用いて、大マゼラン雲にある複数の大質量原始星を近赤外線で観測した。大マゼラン雲は天の川銀河の伴銀河で、地球から約16万光年という近い距離にある若い銀河だ。天の川銀河に比べて重元素(水素とヘリウム以外の元素)の量が少ないという特徴があり、天の川銀河とは大きく異なる環境下での物質の化学的性質を調べるうえで重要な銀河である。

大マゼラン雲
大マゼラン雲(提供:ESA/Hubble)

また、大マゼラン雲は重元素量という点で過去の宇宙と環境が似ているということが知られているため、大マゼラン雲にある星間物質を詳しく研究することで、過去の宇宙における物質進化を探る手がかりが得られると考えられている。

VLTによるデータと、天文衛星「あかり」による近赤外線観測データを組み合わせた詳細な解析の結果、固体の状態で存在する水およびメタノールによる吸収バンドが大マゼラン雲内の複数の原始星で検出された。また、3.47μmバンドと呼ばれる未だに正体がわかっていない赤外線吸収バンドが、初めて大マゼラン雲の天体で検出された。

検出されたスペクトルバンドの性質を天の川銀河にある同様の天体のデータと比較したところ、大マゼラン雲では天の川銀河と比べてメタノール氷の存在量が低いということが初めてわかった。この違いは、大マゼラン雲内での星間氷生成反応の違いが原因ではないかとみられている。

メタノール分子は、星や惑星が形成される低温・高密度領域において、より大きな有機分子を生成する反応の起点になると考えられている重要な分子だ。そのため、メタノールの存在量の低さは、大型の有機分子の存在量の低さにつながることが示唆されている。

今回の発見は、天の川銀河とは環境の大きく異なる他の銀河では、惑星系や生命の材料となりうる物質の化学的性質が異なるということを示した大変興味深い結果といえる。