大マゼラン雲、2億5000万年で一回転

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【2014年2月19日 HubbleSite

ハッブル宇宙望遠鏡を使った新たな計測手法で、わたしたちの天の川銀河の隣にある矮小銀河「大マゼラン雲」の回転速度が正確に測定され、その中央部が2億5000万年で一回転していることがわかった。偶然にも、わたしたちの太陽も天の川銀河を2億5000万年かけて一回りしている。


大マゼラン雲の回転、むこう700万年の動き(矢印)を示したフォトイラスト

大マゼラン雲の回転、むこう700万年の動き(矢印)を示したフォトイラスト。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, A. Feild and Z. Levay (STScI), Y. Beletsky (Las Campanas Observatory), and R. van der Marel (STScI))

宇宙望遠鏡科学研究所のRoeland van der Marelさんと米・バージニア大学のNitya Kallivayalilさんらはハッブル宇宙望遠鏡(HST)を使い、17万光年離れた大マゼラン雲に存在する数百個の星のわずかな動きを7年の歳月をかけて観測した。

同チームではHSTの広視野カメラ3(WFC3)と掃天観測用高性能カメラ(ACS)で大マゼラン雲の22の領域を選んで観測を行った。個々の観測領域には、大マゼラン雲中の星だけでなく背景のはるか遠方に位置するクエーサー()が含まれている。このクエーサーを(固定された)目印にして、大マゼラン雲中の星の動きを調べたのである。画像に見られる矢印は、観測を元にして予測されたむこう700万年の動きだ。

これまで銀河の回転速度は、その光のスペクトルからわかる遠近方向の動きをもとに測定されてきたが、今回の高精度な観測で得られた見かけの動きと組み合わせることで、初めて立体的な動きを正確にとらえることができた。

HSTは、このような観測を可能にする唯一の望遠鏡といえる。高解像度と画像安定性を持ち、さらに24年間もの間宇宙で観測を続けているからだ。「月面に人がいると想像した場合、HSTならその人の髪の毛が伸びる速度を明らかにすることもできますが、今回の研究にはそれほどの高精度が必須なのです。銀河までの距離が離れているために、星の見かけ上の動きがとてもわずかなものになってしまうからです。大マゼラン雲を夜空に浮かぶ時計と思ってください。その時計の針は、2億5000万年かけて一回りしているのです。時計の針が動くことはわかっていましたが、その動きを正確に知るにはHSTによる7年間に及ぶ観測が必要だったのです」(van der Marelさん)。

「星の動きを追うという近傍銀河の研究は、円盤銀河の内部構造の理解を深めるのに役立ちます。銀河の回転速度を知ることは、銀河がどのようにして形成されたのかに関する情報をもたらしてくれるだけでなく、銀河の質量計算にも利用できます」(Kallivayalilさん)。

注:「クエーサー」 100億光年前後彼方にある銀河の中心が膨大なエネルギーを放射し、遠方にも関わらずひじょうに明るく見える天体。