すばる、原始惑星系円盤に2つ目のリングギャップ構造を発見
【2015年6月18日 すばる望遠鏡】
約180光年彼方に位置する「うみへび座TW星」は年齢約1000万年の若い恒星で、その周囲には水素とヘリウムを主成分とするガスと塵でできた円盤状の構造である原始惑星系円盤が広がっている。これほど若い星としては太陽に最も近いので、これまでに様々な観測が行われてきた。2013年にハッブル宇宙望遠鏡(HST)で行われた近赤外線の観測では、原始惑星系円盤中の、中心星から約80au(120億km)離れたところに、リング状のギャップ構造が発見されている。
こうした原始惑星系円盤の中で惑星が誕生すると考えられているが、太陽系を含め惑星系の成り立ちを理解するためには、中心星のすぐ近くの観測が必要不可欠だ。そこで国際共同研究チームは、うみへび座TW星の原始惑星系円盤の細かい塵を、すばる望遠鏡で観測した。地球大気の揺らぎによる画像の乱れを補正する補償光学装置と最新鋭の高コントラストカメラ「HiCIAO」の優れた性能を活かし、さらに観測方法やデータを厳選することによって、HSTの観測よりもさらに中心星に近い領域が観測可能になった。
観測の結果、半径約20au(30億km)のところに新たなリング状のギャップ構造が発見された。この距離は太陽系で言えば太陽から天王星までの距離に相当する位置だ。HSTで発見された構造と合わせて、同じ円盤に2つのリング状のギャップ構造が撮影されたことになる。
この星の若い年齢を考慮すると、複数のリング状のギャップ構造は惑星系を形成する途中の段階だと考えられ、太陽系も昔は似たような姿をしていたと推測される。また、原始惑星によってリング状のギャップ構造が形成される理論予想もあり、今回の観測成果は、惑星系の誕生の謎に迫るうえで重要なものとなった。
「うみへび座TW星の円盤では、中心星からいくつかの異なる距離に同時に複数の惑星が形成されていると考えられます。また、惑星とはいえないまでも、やがて惑星の基になる塵が大きく成長している段階だとも考えられます」(国立天文台 秋山永治さん)。
アルマ望遠鏡では、うみへび座TW星よりも若い別の星(おうし座HL星)を取り囲む多重リング構造の撮像に成功し、円盤内部にある大きな塵の分布を明らかにしている(参照:アストロアーツニュース「視力2000!アルマが見た惑星誕生の現場」)。また電波では、木星のようなガス惑星や地球の大気の材料となるガスも観測できる。研究チームは「電波観測とすばる望遠鏡のデータを組み合わせて円盤の3次元構造を明らかにし、惑星の形成メカニズムの解明を目指します」と意気込んでいる。
〈参照〉
- すばる望遠鏡: 原始惑星系円盤における多重リングギャップ構造の発見
- The Astrophysical Journal Letters: Discovery of a Disk Gap Candidate at 20 AU in TW Hydrae 論文プレプリント
〈関連リンク〉
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