若い惑星系に残るガスは塵から供給された
【2017年4月12日 アステ望遠鏡】
星と惑星系は、星間空間に漂う水素分子を主成分としたガスや塵からなる分子雲が自らの重力で収縮することにより誕生する。生まれたばかりの原始星の周りには多くのガスが存在し、星に向かって落下している。同時に、原始星の周りでは惑星系の元となるガスと塵からなる円盤(原始惑星系円盤)が成長していく。円盤内では塵の合体成長や微惑星形成が起こり、円盤のガス成分は惑星系の形成が完了すると消失すると考えられている。
形成されたばかりの惑星系では、惑星などができる際に残った塵や、岩石同士の衝突でまき散らされた塵が円盤状に漂っている。これは「デブリ円盤」と呼ばれ、惑星系形成の最終段階に当たるが、その内部にはガス成分は存在しないと考えられてきた。ところが近年、一酸化炭素分子(CO)、炭素原子イオン(C+)、酸素原子(O)がガスとして存在していることが明らかになり、その起源について二つの考え方が提示された。
一つは、惑星系の元になったガス成分が残存しているという「残存説」、もう一つは、一度原始惑星系円盤のガスが消失した後、残存した塵や微惑星からガス成分が新たに供給されているという「供給説」だ。水素ガスの存在量で判別できると考えられているが決着はついていない。
理化学研究所の樋口あやさんたちの研究グループはデブリ円盤のガス成分を明らかにするため、チリのアカタマ砂漠に建設されたアステ望遠鏡(ASTE)を用いた電波観測を行った。観測対象となったのは、くじら座の方向200光年の距離にある6等星「くじら座49番星」と、がか座の方向63光年の距離にある4等星「がか座β星」だ。
観測の結果、両方のデブリ円盤で炭素原子(C)のサブミリ波輝線が検出された。この炭素原子ガスと、アステ望遠鏡で別に観測した一酸化炭素分子ガスの運動の様子が似ていることから、デブリ円盤内で炭素原子ガスと一酸化炭素分子ガスが共存していることがわかった。アルマ望遠鏡で観測された一酸化炭素分子ガスのスペクトルとの比較で、これらがデブリ円盤に付随するガスであると確かめられている。
ガスの放射強度からガスの総質量を見積もると、炭素原子ガスの量は一酸化炭素分子ガスの量の数十倍と求められた。これはデブリ円盤に水素分子ガスが少ないこと、すなわち主に塵・岩石同士の衝突などで新たにガス成分が供給されているという「供給説」を支持する結果といえる。
星間空間の炭素原子は一酸化炭素分子が紫外線にさらされ壊されて生成されるが、そこに水素分子があると、炭素原子から一酸化炭素分子に戻る逆の化学反応も同時に進む。たとえば、周囲からの紫外線にさらされている希薄な分子雲では、炭素原子ガスの量と一酸化炭素分子ガスの量は同程度であることが知られている。つまり、炭素原子ガスが大量に存在するという結果は、デブリ円盤中で炭素原子から一酸化炭素分子に戻る化学反応が進行していないことを示しており、水素分子ガスが少ないという結論となる。
今後、多くのデブリ円盤に対して観測を行うと、デブリ円盤のガスがどのくらいの期間存在するのかを知ることができる。それにより、ガスが散逸して現在の太陽系のような惑星系が完成されるまでの時間や、惑星形成最終期に起こると考えられる原始惑星間の衝突について、理解が進むと期待される。
〈参照〉
- アステ望遠鏡: 若い惑星系に残るガスは塵から供給された-炭素原子ガスの検出で分かったガスの起源-
- The Astrophysical Journal Letters: [Detection of submillimeter-wave [CI] emission in gaseous debris disks of 49 Ceti and Beta Pictoris](http://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/aa67f4) 論文
〈関連リンク〉
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