摂氏4300度、史上最も熱い系外惑星
【2017年6月7日 東京大学大学院 理学系研究科・理学部/国立天文台 岡山天体物理観測所/CfA】
東京大学の成田憲保さんと国立天文台岡山天体物理観測所の福井暁彦さんたちが参加する国際研究チーム「KELT」は、2005年から口径わずか4.2cmという非常に小さな望遠鏡を使った系外惑星探査を行っている。恒星の前を惑星が通過(トランジット)することで明るさが変化する現象から惑星を検出するという手法で、特に明るい恒星の周りの惑星探しを実施してきた。
研究チームは2014年、はくちょう座の方向約600光年彼方に位置する8等星「KELT-9」の明るさが0.5%だけ暗くなる現象をとらえた。恒星の明るさは1.5日ごとに暗くなっており、1.5日周期で公転する惑星の存在が示唆されたが、惑星以外の理由で減光している可能性も考えられた。
そこで成田さんと福井さんは岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡に搭載された3色同時撮像装置「MuSCAT」を用いて、2015年にこの惑星の発見確認観測に取り組んだ。その後、KELTチームのメンバーらによる観測結果と合わせ、この現象が本物の惑星によるものであることを確認した。存在が確認された惑星「KELT-9 b」は質量が木星の2.9倍、半径が1.9倍程度で、高温の巨大ガス惑星「ホットジュピター」に分類される。
さらに、惑星の昼側の温度が摂氏約4300度と高温であることも明らかになった。太陽よりはやや低いものの、恒星であるアンタレスやベテルギウス(赤色巨星、赤色超巨星)などよりも高温で、観測史上最も熱い惑星である。こうした常識外れの温度を持つ惑星が発見されたのは初めてのことで、従来の惑星の概念を覆すものであり、惑星の定義を広げることになりそうだ。
中心星KELT-9は表面温度が摂氏約1万度と高温の恒星である。惑星KELT-9 bはそこから約520万km(太陽から地球の距離の約30分の1)という至近距離を公転しており、さらに中心星に対して常に同じ面を向けている。そのため昼側の温度が高くなり、大気中に水や二酸化炭素、メタンなどの分子が生成されることはない。夜側も同様に高温と考えられるため、惑星の大気は従来知られているものとはまったく異なると予想される。
また、中心星からは強い紫外線が放射されているため、その影響で惑星の大気が流出し、彗星のように尾を引いている可能性も考えられる。赤外線天文衛星「スピッツァー」やハッブル宇宙望遠鏡、来年打ち上げ予定のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる観測で、惑星の大気や惑星そのものの形成、進化などについての理解が深まることが期待される。
〈参照〉
- 東京大学大学院 理学系研究科・理学部:史上最も熱い惑星を発見
- CfA:A Planet Hotter Than Most Stars
- Nature:A giant planet undergoing extreme-ultraviolet irradiation by its hot massive-star host 論文
〈関連リンク〉
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