「重力よりも強い」光の力が支配する超大質量ブラックホール近傍

このエントリーをはてなブックマークに追加
400個の活動銀河核の分析から、銀河中心の超大質量ブラックホールを取り巻くガスや塵はブラックホールのごく近傍に位置しており、その配置は主に中心部から発生する電磁波の放射圧で決まることが明らかになった。ブラックホールが急速に物質を吸引し、光の放射圧が重力よりも強くなると、ガスが吹き飛ばされてしまうためブラックホールは太り続けることができなくなるという。

【2017年10月4日 京都大学

銀河のなかには、その中心核から広い波長範囲で太陽の10億~1000兆倍もの莫大な電磁波エネルギーを放射しているものがある。こうした「活動銀河核」の正体は、太陽の10万~100億倍の質量をもつ超大質量ブラックホールだ。ブラックホールに周囲の物質が落ち込むと強い重力によってガスが高温に熱せられ明るく輝き、吸い込まれる直前のガスは電磁波を放射する。

超大質量ブラックホールの想像図
ガスと塵に覆い隠された銀河中心の超大質量ブラックホールの想像図(提供:NASA)

ガスを吸い込んだブラックホールは質量が増えて重くなる(成長する)と推定されるが、そのガスがどこにあり、どのような形で分布しているのか、その起源は何なのかといった、ブラックホールの成長メカニズムを知る上で不可欠な基本的な問題は、長年の謎である。

チリ・カトリカ大学のClaudio Ricciさん、京都大学の上田佳宏さんたちの研究チームは、多数の活動銀河核のサンプルから統計的な性質を調べた。たとえば、全サンプルにおける隠された活動銀河核の割合がわかれば、ブラックホールを隠しているガスや塵の平均的な立体角を推定することができる。

研究チームは、NASAのガンマ線観測衛星「スウィフト」による全天探査で作られたカタログに含まれる400個の活動銀河核について、光度(ブラックホールからの放射エネルギーの強さ)やブラックホールを隠している視線方向にあるガスの量、ブラックホールの質量を求めた。解析には日本のX線天文衛星「すざく」などのデータも利用されている。

データ解析の結果、「ブラックホール質量に対する光度の比」が大きくなるほど、ブラックホールを覆い隠しているガスの量が減っていることがわかった。周囲のガスの分布を決定する要因は、単位時間あたりにブラックホールが吸い込むガスの量であることを、世界で初めて明らかにしたものだ。

この結果は、ガスの分布が、ブラックホールからの強い重力(吸い込まれる方向に働く)と、そこから放射される光の力(放射圧:外に押し出す方向に働く)とのせめぎあいで成り立っていることを意味する。また、ガスの大部分がブラックホールの重力圏内、すなわち数光年~数十光年という近傍にあることも示唆する結果である。

これらの発見は、超大質量ブラックホールがどのように成長をとげてきたかという物理メカニズムを理解する上で鍵となるものだ。たとえば、小さな(重力の弱い)ブラックホールが急速に周囲のガスを吸い込んだ結果、その光度がブラックホール質量に対して相対的に大きくなると、光度の絶対値が小さかったとしても周囲のガスは放射圧で吹き飛ばされてしまう。するとブラックホールに落ち込む予定だったガスが枯渇し、ブラックホールの食べる「餌」もなくなってしまうことになる。超大質量ブラックホールの成長には、このような自己制御(輻射フィードバック)が働いていることが強く示唆される。

開発中のX線天文衛星XARMでは超大質量ブラックホールを覆い隠すガスの運動が高精度で測定できるようになる。ガスに対するブラックホールの重力と放射圧の影響を直接調べることで、物理状態の理解が飛躍的に進むと期待される。

関連記事