ビッグバン直後の超音速ガス流が生んだモンスターブラックホールの種

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スーパーコンピューターによるシミュレーションで、ビッグバン直後の超音速ガス流から太陽の3万4000倍もの質量をもつ巨大ブラックホールが誕生する様子が再現された。初期宇宙に存在する超大質量ブラックホールの種になるものと考えられる。

【2017年10月5日 東京大学理学系研究科・理学部カブリ数物連携宇宙研究機構国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト

遠方宇宙の探査により、宇宙誕生から数億年後の初期宇宙に存在した超大質量ブラックホールが多数発見されている。太陽の数十億倍もの超大質量を持つこうした「モンスターブラックホール」が、初期宇宙でどのように誕生したのかは大きな謎だ。

初期宇宙の超大質量ブラックホールの起源として有力と考えられてきたのは、宇宙で最初に誕生した第一世代の星「ファーストスター」が一生の最期に遺すブラックホールが成長するという説や、宇宙初期に巨大ガス雲が一気に収縮して形成されるという説だ。しかし、いずれも太陽質量の数十億倍にもなる超大質量ブラックホールの早期形成を自然に説明することはできず、さらにいくつかの物理機構の仮定が必要だった。

米・テキサス大学オースティン校の平野信吾さんたちの研究チームはこの問題を解く鍵として、ビッグバン後に残された超音速ガス流に着目し、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイ」などを使って初期宇宙のシミュレーションを行った。

宇宙年齢が1億年のころ、ダークマター同士が重力で引き合って集積し、太陽の2000万倍もの質量をもつ巨大な高密度領域「ダークハロー」が作られる。この巨大なダークハローは、強い重力によって宇宙に残されていた高速のガス流を捕捉し、高温高密度で乱流状態にあるガス雲を生み出す。平野さんたちがシミュレーションでガスとダークマターの両方の運動を追い、乱流ガス雲から原始星が誕生して急速に成長する様子を調べたところ、次のような現象が再現された。

太陽の数万倍もの質量をもつ乱流ガス雲の中では、誕生した原始星へ向けて高速のガスが流れ込み続ける。するとガスの降着によって星の表面が膨張するため、星からは低エネルギーの光が放射されることになり、流入したガスは加熱されて吹き飛ばされることがない。最終的にガス雲全体を取り込んだ星は、太陽の3万4000倍もの質量を持つようになり、一生の最期に同質量の大質量ブラックホールを遺す。

ブラックホール形成時のダークマター分布とガス分布
シミュレーションで得られた、ブラックホール形成時のダークマター分布(背景)とガス分布(内側下3パネル)(提供:平野信吾)

こうして宇宙初期に誕生した巨大ブラックホールは、さらにその後数億年ほどガス降着やブラックホール同士の合体を経て成長し、最終的に太陽の10億倍以上もの超大質量ブラックホールへと進化することができる。ダークハローの形成時期や超音速ガス流の速度分布を理論的に求め、超大質量ブラックホールのもととなる大質量ブラックホールが宇宙に現れる確率を見積ったところ、これまでに発見された超大質量ブラックホールの観測数と一致することもわかった。

宇宙初期のガスの超音速運動まで厳密に再現した初期宇宙進化のシミュレーションにより、超大質量ブラックホールの種となる巨大ブラックホール誕生の過程が明らかにされ、超大質量ブラックホールの出現を観測数も含めて説明できることが確かめられた。将来の遠方宇宙観測で、さらに初期のブラックホールが発見されれば、ブラックホール成長の様子が実際の観測からも示され、理論研究と共に謎の解明が進むと期待される。

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