わし星雲の「創造の柱」を支える磁場構造
【2018年6月8日 国立天文台】
夏の天の川の流れの中に位置する、へび座の星雲M16「わし星雲」は、太陽よりもずっと重い星が誕生しつつある現場である。わし星雲の中心部には柱状の形をしたガスの塊があり、1995年にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像によってよく知られる存在となった。この構造には「創造の柱(Pillars of Creation)」という名前が付けられている。
生まれたての重い星は紫外線を放ち、その星を生み出した周囲の星雲に影響を及ぼす。星雲に生じた波によって、星雲内には創造の柱のような複雑な構造が作られる。しかし、柱状構造がどのように形成され成長していくかは、観測的にも理論的にも明らかになっていない。
こうしたなか、米・ハワイ島マウナケア山のジェームズ・クラーク・マックスウェル電波望遠鏡(JCMT)では、恒星の誕生現場における磁場を観測する国際研究プロジェクト「ビストロサーベイ(BISTRO survey)」が進められている。
その一環として英・セントラルランカシャー大学および台湾・国立清華大学のKate Pattleさんたちの研究チームは創造の柱を観測し、星雲内部の磁場構造を初めて明らかにした。観測結果によると磁力線の向きは柱に沿って平行であり、周囲の星雲内の磁場の向きとは異なっている。
柱の成長具合や寿命は磁場によって大きく左右されるが、観測された磁力線の向きは、弱い磁気を帯びたガスが圧縮されて柱状になったという仮説を支持するものだ。また、推定された磁場の強さは、柱が圧力や重力によってつぶれるのを防ぐのにちょうど必要な程度であり、「創造の柱」が磁場の助けによって形を保ち続けていることがわかった。
〈参照〉
- 国立天文台:わし星雲M16の「創造の柱」を支える磁場構造
- James Clerk Maxwell Telescope:First observations of the magnetic field inside the Pillars of Creation: Results from the BISTRO survey
- The Astrophysical Journal Letters:First observations of the magnetic field inside the Pillars of Creation: Results from the BISTRO survey 論文
〈関連リンク〉
- James Clerk Maxwell Telescope
- アストロアーツ:メシエ天体ガイド
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:M16 わし星雲
関連記事
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/01/19 天の川銀河の折り重なる磁場を初めて測定
- 2023/07/28 星座八十八夜 #9 分割されている唯一の星座「へび座」
- 2023/06/29 太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
- 2023/06/12 プラズマの放射冷却で探るM87ジェットの磁場強度
- 2023/05/26 木星大気の長期変動は「ねじれ振動」に起因する可能性
- 2023/01/30 磁場が支えていた大質量星への物質供給
- 2023/01/06 ほ座パルサー星雲のX線偏光は、かに星雲の2倍以上
- 2022/10/26 JWSTによる「創造の柱」の新しい描像
- 2022/08/29 宇宙最初の星は「ひとりっ子」で誕生する
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/02/09 液体金属の分離が、火星磁場の運命を決めた
- 2021/09/22 「富岳」、太陽の自転周期を再現することに成功
- 2021/08/31 鉄が多い岩石惑星の磁場は長持ちしない
- 2021/08/06 磁場と重力、大質量星の誕生に深く関わるのはどちらか
- 2021/07/29 磁場で超高速回転する原始星ジェット
- 2021/07/16 木星の明滅するX線オーロラのメカニズム
- 2021/05/12 風上に伸びるジェットが示す、銀河団の磁場構造
- 2021/03/31 M87ブラックホール周辺の偏光から磁場の様子をとらえた
- 2021/02/26 表面からコロナ直下まで、ロケット観測でわかった太陽の磁場