ウォルフ・ライエ星に伴星を発見、星までの距離計算に誤差が生じる可能性も
【2004年1月27日 Goddard Space Flight Center Top Story】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡の観測により、巨大でまぶしく輝きながら死を迎えつつある「ウォルフ・ライエ星」というタイプの星の大半に伴星が存在していることがわかった。この発見は、巨大質量星の進化の実態に迫る結果を提供してくれただけでなく、星までの距離計算に大きく影響を与える可能性も出てきた。
ウォルフ・ライエ星(以後、WR星)は、太陽質量の20倍以上の質量を持つ大質量星として誕生する。そして短く太く生きた後、超新星爆発という激しい最期をとげ、新しい星たちの材料となる重元素を宇宙にばらまく運命にある。一生の終盤、「ウォルフ・ライエ期」と呼ばれる段階では、莫大な熱と放射が発生し、時速900万キロメートルにも達する猛烈な恒星風が吹き荒れて外層部が吹き飛ばされる(上図)。この恒星風によって周囲の星間雲が圧縮され、新しい星々が誕生するのだ。
研究グループは、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて銀河系内にある61個のWR星を観測し、うち23個に新たに伴星が発見された。これまでにわかっていたものと合わせるとWR星の約6割に伴星が存在していることになるが、高精度の観測を行えばこの割合はもっと大きくなる可能性もあるということだ。
伴星が存在すると、特に質量輸送の点で大きく星の進化に影響を及ぼす。重力の相互作用による星から星への質量輸送のため、やがて星の質量そのものが変化してしまう。質量が大きければ星の燃料はより早く燃え尽きてしまうので、質量輸送は星の寿命にも直接関係してくるのだ。さらに、軌道や自転速度、恒星風などにも影響を及ぼす。このように、1つに見えていた星が実際には2つ以上の星であることがわかったので、特に太陽の100倍以上の質量を持つと思われていた巨大な質量の星については、質量の下方修正が必要となるかもしれないということだ。
さらに、通常では発見しにくい伴星が見つかったことで、星までの距離を求める方法に大きな不定性が生じてくる。星までの距離を求める方法の一つとして、星の見かけの明るさとスペクトル観測などから推測される本来の明るさとを比較して、暗くなった割合から距離を求めるというものがある。しかし、WR星の見かけの明るさに伴星の明るさが含まれているとすれば、WR星は実際よりも明るく見えていることになり、正しくない距離が得られてしまう(実際よりも近くなってしまう)というわけだ。