闇から浮かび上がった大規模構造:ダークマターの広域分布を初めて測定

【2007年1月9日 すばる望遠鏡 / Hubble Newscenter ほか】

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)とすばる望遠鏡などによって、宇宙規模におけるダークマター(暗黒物質)の分布が、初めて観測的に調べられた。目に見える銀河と同様にダークマターも大規模構造を形成していることが明らかになり、「見える物質」が銀河や大規模構造を形成する上でダークマターの存在が欠かせないことを裏付けた。


(COSMOS天域におけるダークマターの3次元構造)

今回明らかにされたダークマターの3次元マップ。左手前が近傍の宇宙であり、右奥ほど遠い。一番右奥は約80億光年の距離に相当し、そこでは2.7億光年(84Mpc)四方の領域を見ていることになる。クリックで拡大(提供:Joshua Bloom & Daniel Perley/UC Berkeley)

(COSMOS天域で見える銀河の分布(左)とダークマターの分布(右))

今回観測された「目に見える」銀河の分布(左)とダークマターの分布(右)。ともに、3次元的な分布を2次元に投影したもの。クリックで拡大(提供:(Massey et al. 2007, Nature, in press)[STScI, Ray Villard])

宇宙空間には、見える物質よりもはるかに多くの見えない物質(ダークマター)が存在していて、銀河の形成などに強く影響していることがわかっている。しかし、ダークマターは質量を持っているものの、光や電波などを放出することがないため、「どこにどれだけのダークマターが存在しているのか」を知るのは困難だった。

さて、「見える物質」の分布といえば、恒星が集まった銀河、銀河が集まった銀河団、銀河と銀河団が泡状に分布した「宇宙の大規模構造」(解説参照)が知られている。この大規模構造について詳しく調べ、銀河の形成やダークマターとの関係を探るのが「宇宙進化サーベイ(COSMOS)」だ。COSMOSHSTのために用意された観測プログラムで、2年間にわたり観測時間全体の10パーセントをも費やして行われた。

HSTは、2平方度という広さの天域に存在する約50万個の銀河の形を調べた。銀河の手前にダークマターが集中している場合、強い重力によって光が屈曲し、銀河の形はゆがんで見える。窓の向こうに見える景色のゆがみ方からガラスの凹凸がわかるのと同様に、この「重力レンズ効果」によって手前のダークマターの分布が調べられた。

COSMOSには、HST以外にも世界中の名だたる望遠鏡が携わっている。日本からは愛媛大学の谷口義明教授が率いるグループが参加していて、すばる望遠鏡による観測で重要な役割を果たした。

すばる望遠鏡はHSTが観測した約50万個の銀河をさまざまな波長で観測することで、それぞれの銀河までの距離を明らかにした。HSTとすばるのデータを組み合わせることで、われわれから80億光年の距離までの、最大2.8億光年四方の宇宙空間について、ダークマターの3次元分布が明らかにされた。観測を通じてこれほどの広さにわたってダークマターの空間分布が求められたのは初めてのことである。

注目すべきは、今回明らかになったダークマターの分布が、目に見える銀河の分布とほぼ同じである点だ。銀河は、まさにダークマターの密度が大きくなっている領域に集中して存在している。銀河や大規模構造は物質が重力で集まることで形成されるが、「目に見える物質」だけを想定すると、現実よりも時間がかかってしまう。そのため、まずダークマターのかたまりが存在して、そこに「見える物質」が引き寄せられたとするモデルが有力視されていた。今回の観測結果は、このモデルを強く裏付けるものといえる。

今回の成果は数多くの機関から発表されているが、そのうちNASAは、ダークマターの分布を調べる作業について「夜間に撮影された、街灯しか見えない航空写真から、都市の地図を作るようなもの」とたとえた。そして、ダークマターの3次元マップができたことについて、「初めて昼間の都市とその周辺部を見ることができた。幹線道路や交差点、さらにはご近所のようすも見えてきた」と表現している。

宇宙の大規模構造

銀河が集まっている構造を一般的にグレートウォールと呼んでいる。銀河がほとんど存在しない領域は、空洞=ボイドと名付けられている。ボイドは直径数億光年にも達する巨大なものだ。こうした構造は、石けんを泡立てたときにできる幾重にも積み重なった泡にたとえるとわかりやすい。泡の中の膜の部分がグレートウォールに相当し、泡の中の空洞部分がボイドに相当することになる。現在ではこうしたボイドとグレートウォールからなるフィラメント構造が宇宙に連続して広がっていると考えられていて、複雑に入り組んだ「宇宙の泡構造」、あるいは「宇宙の大規模構造」と名付けられている。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.134 宇宙はどんな構造? より一部抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])

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