暗黒エネルギーによる宇宙膨張の加速を確認

【2010年4月2日 ESA HST

COSMOSフィールドと呼ばれる領域に存在する40万個以上の銀河について弱い重力レンズ効果などの分析が行われた結果、過去にさかのぼった暗黒物質の分布が示され、宇宙の膨張が暗黒エネルギーによって加速していることが確認された。


(COSMOSフィールドにおける物質(主に暗黒物質)の分布を平滑化した画像)

COSMOSフィールドにおける物質(主に暗黒物質)の分布を平滑化した画像。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, P. Simon (University of Bonn) and T. Schrabback (Leiden Observatory)、以下同じ)

(暗黒物質の分布を過去にさかのぼって示した画像)

暗黒物質の分布を過去にさかのぼって示した画像。左から、30億年前まで、70億年前まで、90億年前までの分布。クリックで拡大

オランダ・ライデン天文台のTim Schrabback氏らの研究チームが、COSMOSプロジェクト(Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ)で観測し続けているCOSMOSフィールドと呼ばれる領域に存在する44万6000個の銀河の観測データを分析した。

観測データには、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が約1000時間をかけて撮影した575枚の画像が含まれている。これはHSTによる観測としては、過去最大規模である。

研究チームは、HSTのデータに加え、地上に設置された複数の望遠鏡で得られた赤方偏移のデータを利用して、19万4000個もの銀河までの距離を決定した。

さらに、弱い重力レンズ効果(解説参照)を受けた遠方銀河の形の歪みを元に、約90億光年先までの領域を綿密に調べ、物質の分布を明らかにした。過去にさかのぼって物質の分布を明らかにすれば、時間の経過と共に宇宙の構造がどのような変化をしてきたかがわかる。

暗黒エネルギーによる宇宙膨張は、遠方の天体までの距離を増やす。つまり、暗黒エネルギーが少なく、膨張速度が一定あるいは減速する宇宙に比べて、視線上に物質が存在する確率が高くなることになる。研究チームの分析結果でも、(数十億年単位で)時間をさかのぼるほど、より多くの暗黒物質(ダークマター)が検出された。

さらに研究チームでは、得られた物質の分布を、2つのシミュレーション結果と比較した。1つは、暗黒エネルギーに支配された宇宙における暗黒物質、もう1つは、通常の物質に支配された宇宙における暗黒物質である。

その結果、暗黒エネルギーに支配されているモデル(の統計的な特徴)が、COSMOSフィールドの実際の観測結果と一致し、この宇宙の膨張が暗黒エネルギーによって加速していることが確認された。

※重力レンズ効果: 銀河団などのように、物質が集まっていると、その重力が宇宙に浮かぶレンズとして働き、(地球から見て)その背後にある遠方の天体が変形したり拡大されて見える現象のこと。弱い重力レンズとは、銀河団ほどではなくても、ある程度銀河が集団化している場合に働く効果で、銀河の形が少しだけ変形する。レンズ効果を受けたたくさんの銀河の形を統計的に調べると、どの方向にどの程度物質があるかかがわかり、暗黒物質の空間分布を調べることができる。