ビーナスエクスプレスが金星の南極に巨大な渦を発見

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【2011年4月8日 ヨーロッパ宇宙機関

探査機ビーナスエクスプレスが金星の南極に巨大な渦を発見した。以前、金星の北極に同様の渦が観測されていたが、南極で発見されたのはこれが初めてとなる。


(ビーナスエクスプレスによる南極の渦の動画)

ビーナスエクスプレスによる南極の渦の画像。クリックで拡大しアニメーション表示(提供:ESA/VIRTIS-VenusX/INAF-IASF/LESIA-Obs. Paris/ Univ. Lisbon/Univ. Evora (D. Luz, Univ. Lisbon & D. Berry, Univ. Evora))

(渦の中心部の様子)

渦の中心部の様子。白い丸が渦の中心、白いクロスが金星の南極点。クリックで拡大(提供:ESA/VIRTIS-VenusX/INAF-IASF/LESIA-Obs. Paris/Univ. Lisbon/Univ. Evora)

以前、NASAの探査機パイオニアビーナスが金星の北極付近に渦を発見していた。しかし、厚い雲に阻まれ詳細な観測は行うことができなかった。今回ビーナスエクスプレスは南極に渦を発見し、その詳細な観測結果を送ってきた。ビーナスエクスプレスは2005年11月にヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げ、2006年に金星の観測を開始、現時点で2014年まで探査を続ける予定となっている。

金星は90気圧を超える厚い二酸化炭素の大気に包まれており、外層以外の大気の様子を探ることは難しい。ビーナスエクスプレスは複数の波長域における赤外線の探査を行うことで、高度65km付近(注1)で展開する南極域の渦の様子を詳細に観測することに成功した。

今回渦が発見されたのは、パイオニアビーナスが観測した北極の渦とほぼ同規模の、南極を中心とした直径2000kmの領域で、詳細な観測の結果この渦はこれまでの予想よりもかなり複雑な構造をしていることがわかった。渦は24時間以下という短いタイムスケールで常に変化し続けており、地球の台風が数日間同じような構造を保っていることを思うと非常にダイナミックな変化をしていると言える。

極付近に見える渦は、例えば土星では六角形の構造を見ることができるなど、回転している天体ではよく見られるものであるが、今回金星の南極で見つかった渦は構造が安定せず、常に変化しているという点で大きく異なっている。これは、渦の中心部と金星の自転軸の南極点が一致していないためではと考えられる。渦の中心は自転軸の南極点から緯度にして3度、距離にして数百km離れたところを反時計回りに5〜10地球日の周期で回っていることがわかった。これはこの渦が太陽からの重力(潮汐力)の影響を受けていないことを示している。

今回見つかった複雑な渦の構造は極付近に発生する渦の謎や長年の謎とされてきたスーパーローテーション(注2)を解決するヒントとなりそうだ。北極の渦も今回見つかった南極の渦と同様の構造をしていると考えられるが、楕円軌道を取っているビーナスエクスプレスは北極に接近しすぎるために今回のような大規模な構造を見るのは難しいと考えられ、今後の探査機を待つ必要がある。

注1:「高度65kmの大気」 この付近は地球の地表面と同じ1気圧前後であり、硫酸の雲で覆われている。

注2:「スーパーローテーション」 惑星の自転速度を超える速さで雲が惑星表面を移動すること。雲は自転速度を超える速さで移動できないと考えられているため、何故このような雲が存在しているのかよくわかっていない。金星の他にタイタンなど特に自転速度の遅い天体でもこのスーパーローテーションが確認されている。


ビーナスエクスプレスの位置と航路

天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ」では、ビーナスエクスプレスやメッセンジャー、「はやぶさ」など、主な探査機15機の設定日時における位置や航路を表示することができます。