3次元でとらえた、宇宙の網を作る暗黒物質のフィラメント構造

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【2012年10月18日 ESA

宇宙空間に網の目のように広がる「大規模構造」。その一部を成す6000万光年にもわたる暗黒物質のフィラメント構造が、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などによる巨大銀河団の観測をもとに初めて3Dでとらえられた。


網の目のように広がる「宇宙の大規模構造」

フィラメントが網の目のように広がる「宇宙の大規模構造」のイメージ図。フィラメントの結合部に銀河団が形成される。動画をリンク先で見ることができる。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, Harald Ebeling (University of Hawaii at Manoa), Jean-Paul Kneib (LAM))

銀河団「MACS J0717」とその質量分布

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた銀河団「MACS J0717」に、研究に基づいて描かれた質量分布を青色で重ねたもの。フィラメント構造は画像の左側に向かって伸びている。動画をリンク先で見ることができる。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, Harald Ebeling, Jean-Paul Kneib)

ビックバン理論によれば、生まれたばかりの宇宙における密度のむらが物質の構造を形作り、フィラメント(繊維状のもの)がつながったクモの巣のような「宇宙の大規模構造」を作っているとされている(画像1枚目)。宇宙進化のコンピューターシミュレーションでは、網の目のような構造ができ、巨大銀河団をつなぎ目として長いフィラメント構造が広がる様子が示されている。

このようなフィラメントは主に暗黒物質(ダークマター)でできており観測は非常に難しいが、観測技術の発達のおかげで、今年に入って初めてその一部が見つかった。さらにフィラメントの3次元構造を再現した今回の研究成果は、2次元での検証よりもさらに信頼性の高い、非常に進歩的なものだ。

Mathilde Jauzacさん(マルセイユ天体物理学研究所/南アフリカのクワズール・ナタール大学)らのチームは、巨大質量銀河団「MACS J0717.5+3745」(以降MACS J0717)周辺領域の精細な画像と銀河団中の銀河の分光観測データを組み合わせた研究を行った。これらの観測データを一緒に解析することで、銀河団の外まで広がるフィラメントの視線方向における形を調べることができる。

今回の研究には、いくつかのポイントがある。

まず、観測対象の選定だ。宇宙進化の理論によれば、銀河団は複数のフィラメントが交差するところで作られ、フィラメントから物質が少しずつ流れ込む。銀河団MACS J0717は活発的に成長していることがわかっており、最優先ターゲットとなった。

次に、「重力レンズ」の利用。フィラメントの材料の大部分である暗黒物質は目には見えないが、その質量による重力で光を曲げるため、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた周辺領域の像のゆがみをもとに質量の分布を把握した。

そして、3次元モデルの構築に必要となる銀河の距離と動きの測定。米ハワイ・マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡、CFHT望遠鏡、ケック望遠鏡、ジェミニ北望遠鏡を利用して、フィラメントに含まれる数千個の銀河の位置を特定し、その多くについて動きを測定した。

以上のようにして得られたフィラメントの3次元構造は、これまでの理論やシミュレーション研究の予測を大きく広げるものだった。6000万光年以上の長さを持つMACS J0717のフィラメントは天文学的スケールとしても非常に大きい。また、今回対象となった構造が巨大銀河団のそばにある平均的なものであるならば、網の目の結び目同士をつなぐフィラメントは、理論的な予測より多くの質量を暗黒物質として抱えている可能性がある。宇宙の全質量の半分が、こうした構造の中に潜んでいるのかもしれない。