鉄が見つからなかった星は宇宙初期のブラックホール生成の痕跡

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【2014年9月25日 カブリIPMU

最近見つかった極端に鉄の割合が低い星について、理論計算の結果、宇宙で最初にできた初代星の超新星爆発で放出された元素から誕生したことが明らかになった。その特異な元素組成は、太陽の数十倍の質量をもつ初代星が超新星爆発を起こしてブラックホールになる時に放出する元素組成にひじょうに近いこともわかった。


極端に鉄の割合が低い星「SMSS J0313-6708」

極端に鉄の割合が低い星「SMSS J0313-6708」。1989年にアングロ・オーストラリアン天文台 (AAO)の望遠鏡で撮影された画像。クリックで拡大(提供:CAI/Paris - provided by CDS image server, Aladin: Bonnarel F.,et al. Astron. Astrophys., Suppl. Ser., 143, 33-40 (2000))

ジェットを伴う初代星の超新星爆発のイメージ図

ジェットを伴う初代星の超新星爆発のイメージ図。クリックで拡大(提供:カブリIPMU)

宇宙で最初にできた初代星は、ビッグバンで宇宙が誕生したときには水素やヘリウムなどの軽い元素しかなかった環境で、酸素や炭素など重い元素を初めて合成するという重要な役割を果たした。また、初代星が放つ光や一生の最期に起こす超新星爆発は、宇宙の再電離()や、その後の銀河形成にも少なからず影響を及ぼしたと考えられている。

こうした初代星の多くは寿命が短いため、直接性質を調べる手だてがほとんどないが、天の川銀河に含まれる古い星の元素組成を、初代星の性質を知るための手がかりとすることができる。古い星々の大気に含まれる物質には、それより前に初代星の内部で作り出され超新星爆発でばらまかれた物質の元素組成が反映されていると考えられるからだ。

最近、極端に鉄の割合が低い星「SMSS J0313-6708」がオーストラリアの天文台等による観測で発見された。この星のスペクトルには、同じタイプの星なら通常見られるはずの鉄のスペクトル線がまったく検出されず、鉄の割合は大きく見積もっても太陽の1000万分の1以下であることがわかった。

東京大学カブリIPMUの石垣美歩さんらは、この星の鉄とカルシウムの割合が並外れて低い一方、炭素の割合が鉄に比べてひじょうに高いという特異な組成に着目した。そこで、太陽の25倍および40倍の質量を持つ初代星の超新星爆発で放出される元素組成を理論計算によって求め、見つかった星の観測結果と比較した。

その結果、観測された星の元素組成は、合成された鉄やカルシウムの大部分が星の中心部が及ぼす重力によって落ち込み、ブラックホールになるとしたモデルによってほぼ再現できることを明らかにした。

初代星の中には、今日の天の川銀河には見られないような太陽の数百倍を超える大質量星もあったとする理論予測があり、実際にその痕跡を残しているとみられる天体も見つかっている。一方で初代星がこのような巨大質量星ばかりであったのかどうかは議論が分かれている。今回の研究成果は、宇宙初期に今日も見られるような星と同じような質量(太陽の数十倍程度)の初代星が形成されたことを支持する成果となった。

注:「宇宙の再電離」 ビッグバンで宇宙が始まってから数十万年から数億年までは、宇宙に含まれる水素などの物質は電子と原子核が結合した中性の状態で存在していた。その後星や銀河が形成されていくにつれて、それらが放つ紫外線によって水素が電離され、光が水素ガスに吸収されずに進めるようになった。このように宇宙初期に初代星や初代銀河などによって中性の物質が電離されていったことを「宇宙の再電離」とよんでいる。