コンパス座X-1を取り巻くX線リング
【2015年6月29日 Chandra X-ray Observatory】
コンパス座X-1は中性子星と大質量星の連星系で、X線を放射している天体だ。2013年の終わりに、この中性子星で巨大なバーストが2か月にわたって起こり、その間は非常に明るいX線源となっていた。
その後、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」やヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMM-Newton」で観測したところ、コンパス座X-1の周囲にX線で輝く4つの明るいリングが見つかった。
この4重リングは、コンパス座X-1で起こったX線バーストからのエコー(こだま)だ。電波観測ではコンパス座X-1に塵の雲が見つかっており、その雲の別々の場所で反射したX線がリング状に見えている。
雲で反射したX線は、真っ直ぐに届くX線よりも長い距離を通ってきた分、地球に届くのが遅くなる。この数か月の遅れをX線で観測し、電波観測でわかっている雲の形状と組み合わせることで、コンパス座X-1が地球から3万700光年の距離に位置していることが明らかになった。コンパス座X-1は銀河面の濃い塵に隠されているため可視光線での観測はできないが、そうした天体までの距離がX線と電波の観測データから明らかにされたのは興味深い。
〈参照〉
- Chandra X-ray Observatory: NASA’s Chandra Captures X-Ray Echoes Pinpointing Distant Neutron Star
- Phys.Org: Neutron star's echoes give astronomers a new measuring stick
- The Astrophysical Journal Letters: Lord of the Rings: A Kinematic Distance to Circinus X-1 from a Giant X-Ray Light Echo 論文
〈関連リンク〉
- X線天文衛星チャンドラ: http://www.nasa.gov/mission_pages/chandra/main/
- XMM-Newton: http://www.esa.int/science/xmmnewton
〈関連ニュース〉
- 2013/02/14 - 原始星が放つフラッシュライト
- 2008/12/08 - すばる望遠鏡、ティコの超新星残骸の起源を解明
- 2008/05/30 - すばる望遠鏡、カシオペヤ座Aを形成した超新星爆発を明らかに
- 2007/01/26 - 天の川の中心で響く「光のこだま」
関連記事
- 2024/12/05 特異なX線連星から吹き出すプラズマの風とブラックホールの運動を観測
- 2024/02/26 中性子星合体によるショートガンマ線バーストの駆動機構を解明
- 2024/02/21 高速電波バーストの謎に迫るマグネターの双子グリッチ
- 2023/10/17 中性子星で起こる、地球の地震とそっくりの余震
- 2023/07/14 中性子星合体から1秒間の変化を高精度シミュレーション
- 2023/05/23 宇宙ジェットで掃き集められた分子雲
- 2022/12/15 常識をくつがえすハイブリッド型のガンマ線バースト
- 2022/11/29 マグネターの超強磁場、X線偏光で初めて観測的に確認
- 2022/11/02 中性子星の合体でレアアースが作られていた
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2022/08/01 一見孤立したガンマ線バースト、実は遠方銀河の中にいた
- 2021/12/10 X線偏光観測衛星「IXPE」、打ち上げ成功
- 2021/12/02 ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線
- 2021/11/01 「銀河系外惑星」候補を初めて発見
- 2021/08/04 ブラックホールの背後から届いたX線の「こだま」
- 2021/07/05 中性子星とブラックホールの合体に伴う重力波を初観測
- 2021/05/19 せいめい望遠鏡の新システム「TriCCS」が本格稼働
- 2021/05/18 中性子星内部の状態を実験室で再現、硬さを測定
- 2021/01/22 10年間隔の画像を比較して超新星爆発の年代を逆算
- 2020/12/03 ガンマ線連星中のコンパクト天体はマグネターの可能性