数百万個の星の動きに残る天の川銀河の過去
【2018年9月26日 ヨーロッパ宇宙機関】
2013年12月に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」は、2014年7月から天の川銀河の恒星を観測し続けており、10億個以上の星の正確な位置と天球上での(2次元的な)動きを測定している。そのうち数百万個の星については、3次元的な速度も推定されている。
スペイン・バルセロナ大学のTeresa Antojaさんたちの研究チームはこのデータを用いて、天の川銀河の星の位置と速度の関係を調べた。すると、銀河の円盤部に存在する星々が予想外の興味深い動きをしていることが明らかになった。円盤からの上下方向の距離と、その方向への速度をグラフにプロットしてみたところ、これまでに見たことがない、カタツムリの殻のようなパターンが現れたのだ。
Antojaさんは「あまりにはっきりした形だったため、データに問題があるはずだ」と考えたが、どんなにチェックしても、そのパターンが実際に存在しているという結果にしかならなかった。ガイアのデータの質がこれまでのものに比べて格段に高いおかげで、初めて見えてきたパターンだったのである。「度がぴったり合った眼鏡をかけたかのように、それまで見えていなかったものが、突然全部見えたようなものです」(Antojaさん)。
このパターンは、何らかの外的な要因によって作り出されたものだと考えられる。「池に石を投げ込んだようなものです」(Antojaさん)。その痕跡を星の空間分布から見つけ出すのは難しいかもしれないが、星の速度には跡が残されているのだ。
その要因を生み出したのは「いて座矮小楕円銀河」かもしれない。いて座矮小楕円銀河は数千万個ほどの星でできた小さな銀河で、現在天の川銀河に飲み込まれつつある。この銀河が数億年前に天の川銀河に接近した際、矮小銀河が天の川銀河の星に重力的な影響を及ぼしたと考えられるが、この時期は研究チームによるシミュレーションで導かれた、グラフのパターンが作られ始めるタイミングとほぼ一致しており、いて座矮小楕円銀河が要因であるという説を裏付けている。
とはいえ、いて座矮小楕円銀河とパターンとの関連は、現在までのところ、単純なコンピューターモデルと分析に基づくものに過ぎない。次のステップは現象を精査して、天の川銀河についてより完全な知識を得ることだ。「パターンの発見は簡単でしたが、その解釈は困難です。それが意味するところや示唆するものを完全に理解するには、数年かかるかもしれません」(オランダ・フローニンゲン大学 Amina Helmiさん)。
ガイアの主目的は天の川銀河の構造や進化、その起源を調べることであり、今回の発見は、今年4月にリリースされた第2期データ(Gaia Data Release 2; DR2)によるものだ。「これこそ、私たちがガイアのデータからもたらされることを望んでいた類の発見です。天の川銀河には様々な歴史があり、私たちはその物語を読み解き始めたところです」(ESAガイア・プロジェクトサイエンティスト Timo Prustiさん)。
〈参照〉
- ESA:Gaia hints at our Galaxy's turbulent life
- Nature:A dynamically young and perturbed Milky Way disk 論文
〈関連リンク〉
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