天の川銀河の最遠端が見えてきた
【2019年6月26日 東北大学】
私たちが住む天の川銀河は大きく分けて、「天の川」にあたる銀河の円盤部と、それを取り囲むハローと呼ばれる広大な領域から構成されている。円盤には年齢が数十億歳と比較的若い星が1000億個ほど分布している。一方のハローには、年齢が120億年前後の最長老の星が約10億個と、主にこうした老齢の星からなる球状星団が150個ほど存在している。
つまり、ハローには天の川銀河の形成初期に生まれた星があり、形成当初の銀河は現在に比べてとても大きな状態だったことになる。これは天の川銀河が初期に多くの小銀河の合体を経て形成され、その痕跡が年齢の古い星の広がった分布として残っているからだ。
ハローがどこまで広がっているのかを調べることは、天の川銀河の形成の歴史を知る手がかりとなる。そのためには、ハロー全体に広がり、ハローの端にあっても同定できるような明るい目印となる星を使うと便利だ。そのようなものの一つとして、青色水平分枝星と呼ばれるタイプの星があり、これまでにもハローの地図作りに利用されてきた。青色水平分枝星は、太陽よりも軽く年齢が古く進化が進んだ天体で、絶対等級が明るく星の色に関係なくほぼ一定であり、星の色等級図中で水平な分布を示すことからこの名前で呼ばれている。
東北大学の福島徹也さんたちの研究チームでは、すばる望遠鏡の超広視野焦点カメラ「HSC(Hyper Suprime-Cam)」で取得されたデータの解析から、ハローにおける青色水平分枝星の大域的な分布を解明した。ハローの端にあって見かけ上暗く、しかも数も少ない星を発見するためには、大口径のすばる望遠鏡と広視野のHSCの組み合わせは非常に適したものだ。
研究チームでは、青色水平分枝星と他の点源天体とを区別するためのプログラムを開発し、これによって約120万光年の距離まで星の性質を詳しく調べられるようになった。従来の地図作りでは32万光年くらいまでしか到達できていなかったため、4倍遠くまで分析できるようになったことになる。
研究の結果、青色水平分枝星の数密度は銀河中心から遠ざかるにつれて減少する傾向が見られ、半径約52万光年(銀河中心から太陽系までの距離の約20倍)あたりで数密度が激減していることが明らかになった。このあたりがハローの境界となっている可能性が高いと考えられる。
共同研究者の千葉柾司さん(東北大学)は、このようなハローの分布は、銀河形成の初期に矮小銀河が合体を繰り返し壊されながら天の川銀河が形成される過程を反映したものだと指摘している。今回明らかにされたハローの空間的な大きさは、天の川銀河を包むダークマターの広がり(「ダークハロー」とも呼ばれる領域)に匹敵しており、銀河が矮小銀河を含む小さなダークハローの合体によって形成される過程を理解する上で大変重要な要素になる。
天の川銀河の近傍に位置するアンドロメダ座大銀河では、中心から約53万8000光年の距離までハロー領域が広がっていることが確認されている。アンドロメダ座大銀河のハローと天の川銀河のハローは様々な面で違っており、両銀河がそれぞれ異なる合体史を経て形成されたことを反映していると考えられている。
今回の研究成果は、すばる望遠鏡による広域観測サーベイの途中段階のデータから得られたものだ。今後、さらに多数の青色水平分枝星がハローに検出されることでハローの地図が精密化され、天の川銀河の形成史に関する重要なヒントが得られることが期待される。
〈参照〉
- 東北大学大学院理学研究科・理学部:銀河系の端が見えてきた!
- PASJ:The stellar halo of the Milky Way traced by blue horizontal-branch stars in the Subaru Hyper Suprime-Cam Survey 論文
〈関連リンク〉
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