光速の99%以上、M87のブラックホールからのジェット
【2020年1月9日 チャンドラ】
昨年4月、おとめ座の巨大楕円銀河M87の中心に存在する超大質量ブラックホールの影(ブラックホールシャドウ)が史上初めて撮像されたと発表され、大きな話題となった(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)。
M87の中心ブラックホールは太陽の65億倍もの質量を持っている。その周囲に近づいた物質はブラックホールを取り巻く降着円盤を形成し、物質の一部がブラックホールへと落ち込むと、磁力線に沿ってブラックホールから細いジェットとなって噴き出す。この長く伸びたジェットは以前から、様々な電磁波で観測されてきた。
米・ハーバード・スミソニアン天体物理センターのBradford Sniosさんたちの研究チームはNASAのX線天文衛星チャンドラで、このジェットを繰り返し観測した。その結果、2012年と2017年の観測データから、ジェット中の一部分がブラックホールから遠ざかるように移動している様子がとらえられた。
詳しく調べると、ブラックホールから900光年離れた塊は見かけ上の速度が光速の6.3倍、2500光年離れた塊は2.4倍で運動している。これは「超光速運動」と呼ばれる現象で、物質がこちら向きに、光速に近い速度で移動する際に見られるものである。また、900光年離れたほうの塊からのX線は、5年間で約70%弱くなっていた。
超光速運動はこれまでにも電波や可視光線で観測されていたが、この運動がX線で観測されたことと、塊からのX線が弱くなっていることは、間違いなくジェットを構成する粒子そのものが光速の99%以上で移動していることを示す重要な成果だ。X線が弱く暗くなった理由は、粒子が磁場の周りで回転運動することでエネルギーを失ったためと考えられている。「私たちの研究で、M87から噴き出すジェットの粒子が光速に近い速度で移動していたことを示す、これまでで最も強力な証拠が得られました」(Sniosさん)。
チャンドラが観測したジェットの全長は1万8000光年にも及び、ブラックホールシャドウよりもはるかに大きい範囲を見ている。また、チャンドラが見ているのは数百年から数千年前にブラックホールから噴出したジェット中の物質であり、これはブラックホールシャドウが見せた観測当時のブラックホールの姿の、はるか昔の様子を知る手がかりを与えてくれるものでもある。チャンドラの観測は、ブラックホールシャドウの観測を補うという点でも重要な成果である。
〈参照〉
- Chandra X-ray Observatory:Famous Black Hole Has Jet Pushing Cosmic Speed Limit
- The Astrophysical Journal:Detection of Superluminal Motion in the X-Ray Jet of M87 論文
〈関連リンク〉
- Chandra X-ray Observatory
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