せいめい望遠鏡で赤色矮星のスーパーフレアを検出
【2020年7月17日 京都大学】
太陽表面における突発的な爆発現象「太陽フレア」は、ときに磁気嵐を引き起こして通信や人工衛星に影響を与えたり、オーロラを発生させたりするなど、私たちの生活にも関わる現象である。数百年に1度ほどの頻度で、通常のフレアの10倍以上もの超巨大な「スーパーフレア」が発生する可能性も研究から示唆されている。
スーパーフレアは太陽より温度が低い星でも頻発しており、近年では系外惑星系の中心星で発生するスーパーフレアが惑星や生命にどのような影響を与えるのかも注目されている。しかし、発生頻度の低さと予測の困難さから、スーパーフレアの性質の解明に必要となる恒星の分光観測例は少ない。
京都大学の行方宏介さんたちのグループは、2019年春に観測を開始した京都大学岡山天文台の光赤外線望遠鏡「せいめい望遠鏡」を用いて、他の恒星におけるスーパーフレアを分光観測するプロジェクトを行っている。行方さんたちは太陽より温度が低い赤色矮星(M型矮星)である「しし座AD星」のフレアの発生頻度が比較的高いことに注目し、8.5夜にわたってモニタリング観測を行った。さらに、光赤外線天文学大学間連携「OISTER」や、中央大学の口径36cm望遠鏡「SCAT」なども用いて、フレアの物理の解明に必要とされるX線から可視光線までの複数の波長で同時観測を実施した。その結果、12件のフレア現象が検出され、その中に最大級の太陽フレアの約20倍程度に当たるスーパーフレアが含まれていた。
観測データをモデル計算により解析したところ、スーパーフレア中に可視光線の増光に対応してHα水素線の幅が数分間に大きく広がり、元に戻る様子が明らかになった。このような短時間で変化する現象の報告例はこれまでになく、せいめい望遠鏡の持つ高い精度による成果と言える。この現象を説明するには、スーパーフレアの増光を引き起こす高エネルギー電子の量が、太陽フレアに比べて一桁程度大きい必要があることもわかった。
さらに、Hα輝線では増光があるが可視線連続光では増光のない、予想より一桁以上弱いフレアがいくつもあることも発見された。これまで恒星フレアの研究には主に可視連続光観測が用いられてきたが、実際のフレアの発生頻度がこれまで見られていたものよりも高い可能性を示唆する発見である。
行方さんたちは「太陽でスーパーフレアが発生した時に地球環境はどうなるのか?」という問いへの答えを得ることを目指して今後も観測研究を続けていくという。また、地球磁気圏にも影響が及ぶことのあるスーパーフレアで、どれほどの質量・速度のプラズマが飛び出すのかも長期観測で明らかにしたいと考えている。
〈参照〉
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