再増光はあるか?さそり座の2等星ジュバに注目

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さそり座δ星ジュバの伴星が4月下旬に近星点を通過すると予想されている。過去の通過時にはジュバの増光が観測されており、今回も明るくなるかもしれない。

【2022年3月30日 高橋進さん】

さそり座δ(デルタ)星はさそりの口の付近に輝く2等星で、「ジュバ」という固有名があります。恒星の周りに高速で自転するガスの円盤が広がっており、自転に伴うドップラー効果で水素の輝線スペクトルの形が「ふたこぶ」になるという特徴をもつ、カシオペヤ座γ(ガンマ)型変光星の一つです。

スペクトル
ジュバのHα輝線スペクトル。美星天文台(岡山県井原市)の川端哲也さんの観測データによる(作成:高橋さん)

この星は以前は2.3等星くらいで観測されていたのですが、2000年7月にアルゼンチンのセバスチャン・オテロさんが普段より明るくなっていることに気づきました。7月下旬には2.0等になり、さらにその後もじわじわと増光し、2003年には1.6等と「もうすぐ1等星」まで明るくなりました。

その後、ジュバは2005年ごろから減光し、しばらくは2.0等から2.4等くらいを変動していました。ところが2010年ごろから再び明るくなり、1.8等くらいを推移するようになりました。

ジュバはカシオペヤ座γ型変光星であると同時に、太陽質量の13倍くらいのB型星の周りを太陽質量の8倍くらいのB型星が回る連星であることがわかっています。その軌道周期は10.8年ほどですが、離心率が0.94というとても細長い軌道です。ハレー彗星の軌道の離心率が0.97ですから、これに似たような軌道です。ジュバの伴星が主星に最接近するとき(近星点通過時)の接近距離は0.8天文単位で、太陽と金星よりほんの少し遠いくらいの距離です。逆に最も遠ざかる遠星点通過時の距離は26天文単位ですから太陽と海王星の距離よりやや近いくらいです。ハレー彗星は直径15kmくらいの天体ですが、ジュバの伴星は太陽質量の8倍もあるのですから、主星に少なからず影響があると思われます。

軌道図
軌道図。画像クリックで表示拡大(作成:高橋さん)

実は、ジュバが最初に増光を起こした2000年というのは、まさに伴星が近星点を通過した年でした。そして次の近星点通過にあたる2011年ごろに再び増光が見られたわけです。さらにそれに続く近星点通過が、今年4月下旬とみられます。今回はすでに1.8等から1.9等と明るい状態になっていて、これ以上明るくなるかどうかは微妙ですが、どのような光度変化があるかとても興味深いところです。

ジュバの光度
ジュバの光度。画像クリックで表示拡大(VSOLJメーリングリストのデータから高橋さん作成)

ジュバは日本(本州付近)から見るとあまり高くならず、近くにほど良い比較星がないため、光度観測が難しい星です。すぐ近くに輝くアンタレスは色の赤い星ですので、比較星にはお勧めできません。さそり座λ星シャウラ(1.6等)やいて座ε星カウスアウストラリス(1.8等)などが似たような明るさですが、地平線からの高度差がある場合は注意が必要です。長年熱心に観測されている中谷仁さんに伺ったところ「へびつかい座η星サビク(2.4等)か、さそり座β星アクラブ(2.6等)を使っています」とのことでした。比較星を1つだけ使う方法(光階法)で熟練が必要となりますが、高精度で明るさを見積もることができます。

さそり座周辺の星図
さそり座周辺の星図。数字は恒星の等級(24=2.4等)を表す(「ステラナビゲータ」で星図作成)

一昨年、オリオン座のベテルギウスが一時的に2等星になり、オリオン座の1等星がリゲルだけになってしまいました(現在は2個に戻っています)。もし今回ジュバが1等級まで明るくなり、さそり座に1等星が2個輝くようになれば、よく知られた神話のようにオリオンはさそりに脅かされてしまうかもしれません。

10年ぶりに伴星が近星点を通過するジュバが、はたしてどのような光度変化を見せてくれるか、ぜひ多くの皆さんの観測をお願いいたします。

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