すばる望遠鏡HSCで挑む「銀河考古学」
【2015年8月5日 すばる望遠鏡】
M81はおおぐま座の北斗七星の近くに位置する美しい渦巻銀河だ。地球から約1200万光年と近いところにあるため大きく明るく見え、天文ファンの人気が高く、研究者にとっても格好の観測対象となっている。
M81を大型望遠鏡や宇宙望遠鏡で撮影すると、銀河の周囲を取り巻くハロー構造に含まれる星を一つ一つ分解することができる。上海天文台、国立天文台、広島大学、エジンバラ大学、ケンブリッジ大学の国際研究チームは、直径1.5度(満月3個分)の広い視野を誇るすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(HSC)を使い、局部銀河群(天の川銀河やアンドロメダ座大銀河が含まれるグループ)とは別の銀河群に属する大型銀河として初めて、M81のハローと周囲の衛星銀河を包括的に調べる「M81銀河考古学」プロジェクトをスタートさせた。そして2015年1月、M81とそれに付随するM82、NGC 3077など衛星銀河の詳細な姿をとらえることに成功した。
画像中の個々の星を色と光度で分類し、若い主系列星と年老いた赤色巨星それぞれの「分布図」を作成したところ、年齢が1億年未満の若い主系列星の空間分布図ではM81、M82、NGC 3077それぞれの銀河の外側に多くの若い星の集団があることが初めて明らかになった。さらに、M81とNGC 3077をつなぐ恒星ストリームも見つかった。どの集団も明るさの分布が等しく、中性水素ガスの分布とほぼ同じ場所にあることから、約2億年前に起こったとされる3つの銀河の重力相互作用によってM81から大量のガス塊が引きちぎられ、そのガスの中で星の集団が同時多発的に生まれたと考えられている。
一方、10億年以上昔に生まれた赤色巨星は、3つの銀河のハローが重なり合うように広範囲になめらかに分布していることが明らかになった。M82のハローの外側にある星は、他の2銀河のハローよりも平均的に重元素が少ないことがわかる。また、若い星の分布図では見えていなかった別の3つの矮小銀河(IKN、BK5N、KDG61)が確認でき、これらの矮小銀河には古い星しか存在しないこともわかる。
天の川銀河やM81のような大きな銀河は、小さな銀河が重力相互作用で合体することで大きく成長していったと考えられている。大きな銀河の周りには、取り込まれずに生き残った衛星銀河や、衛星銀河が大型銀河の潮汐力で引き千切られて星が帯状に分布した「恒星ストリーム」などが多く存在すると予測されおり、実際に天の川銀河や230万光年かなたのアンドロメダ座大銀河の周辺からは見つかってきている。
こうした衛星銀河や恒星ストリーム、銀河周辺の複雑なハロー構造を観測し、星の年齢や成分を調べて大きな銀河本体の歴史をひも解く「銀河考古学」研究が発展してきているが、局部銀河群の外(地球からおよそ500万光年以上の距離)では観測が困難であった。銀河を星に分解するには大型望遠鏡の高解像度と大集光力が欠かせないが、大型望遠鏡のカメラは視野に限りがあり、大きな銀河の周辺構造全体をくまなく精密に調べることは非常に難しい。大口径のすばる望遠鏡と広視野のHSCは、この「銀河考古学」になくてはならない組み合わせなのである。
「天の川銀河、アンドロメダ座大銀河に続く3例目の『銀河考古学』として、HSCの完成によって初めて、M81周辺部の構造を広範囲にわたって詳しく調べることが可能になりました。すばる望遠鏡『戦略枠プログラム』で進行中のHSC広視野サーベイを用いた天の川銀河の研究と合わせて、大型銀河の過去の形成過程に迫りたいと考えています」(上海天文台 岡本桜子さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡: 超広視野主焦点カメラ HSC で挑む M81 銀河考古学
- 国立天文台: 超広視野主焦点カメラ HSCで挑む M81 銀河考古学
- Astrophysical Journal Letters: A Hyper Suprime-Cam View of the Interacting Galaxies of the M81 Group 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台: http://www.nao.ac.jp/
- すばる望遠鏡: http://subarutelescope.org/
- アストロアーツ:
- 星ナビ.com:
- 2015年1月号 記事「「すばる」が撮ったアンドロメダ銀河を画像処理」
- こだわり天文書評:
- 宇宙へのまなざし すばる望遠鏡天体画像集
- すばる望遠鏡の宇宙 ハワイからの挑戦
- 宇宙の果てまで すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡
- ようこそ宇宙の研究室へ すばる望遠鏡が明かす宇宙のなぞ集
- 大望遠鏡「すばる」誕生物語 星空にかけた夢
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