巨大ブラックホールに吸い込まれる冷たいガス雲の塊
【2016年6月13日 アルマ望遠鏡】
これまで、巨大な銀河の中心にある超大質量ブラックホールはゆっくりと一定のペースで高温の電離ガスを吸い込んでいくと考えられてきたが、最近では、超大質量ブラックホールは不規則なペースで低温のガス塊を吸い込むという説も考えられるようになっている。
米・イエール大学のGrant Tremblayさんたちの研究チームが行った観測から、冷たく高密度のガスが銀河中心のブラックホールに落ちていく様子がとらえられ、後者の説が初めて直接裏付けられた。
研究チームは、みずがめ座の方向約10億光年の距離に位置する、50個ほどの銀河を含む銀河団「エイベル2597」をアルマ望遠鏡で観測した。この銀河団の中心には巨大な楕円銀河が存在している。
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」の観測によって、エイベル2597の銀河の間の空間は希薄で高温な電離ガスで満たされていることがわかっている。「この非常に高温のガスは、すぐに冷えて凝縮してしまいます。凝縮したガスは銀河に落下していき、そこで星の形成を促進したりブラックホールに落ちていったりします」(Tremblayさん)。
アルマ望遠鏡がとらえたのは、3つの巨大で冷たいガス塊が、秒速300kmで超大質量ブラックホールに向かって落下している様子だ。それぞれのガス塊は数十光年にもわたる大きさで、太陽の100万倍もの質量を持っている。巨大楕円銀河の中心近くで、高温ガスが冷えて凝縮し銀河に落ちていくというプロセスがシナリオ通りに起こっている様子が、初めて観測されたのである。
実際には3つだけでなく数千個もの塊がブラックホールの周りに存在し、それをブラックホールが長期にわたって食べ続けるのではないかと研究者たちは考えている。こうした現象がありふれたものであるという理論予測を確かめるために、研究チームではアルマ望遠鏡を使って他の銀河を観測する計画を立てている。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡: 巨大ブラックホールに吸い込まれる冷たい雲
- Nature: Observational evidence for cold, clumpy accretion onto an active supermassive black hole 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡: http://alma.mtk.nao.ac.jp/
- 星ナビ.com こだわり天文書評:
〈関連ニュース〉
- 2016/01/06 - 天の川銀河中心の巨大ガス雲の動きから探るブラックホール周辺
- 2015/10/15 - 太ったブラックホールは銀河の都会育ち
- 2012/06/21 - 平均的ブラックホールはつまみ食いで成長
- 2011/12/20 - ブラックホールに飲み込まれるガス雲
関連記事
- 2024/12/19 M87のジェットから強力なガンマ線フレアを検出
- 2024/12/10 楕円銀河の構造が作られる現場をサブミリ波でとらえた
- 2024/11/01 天の川銀河中心の大質量ブラックホールの観測データを再解析
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/03/15 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
- 2024/03/08 最も重い巨大ブラックホール連星を発見
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/01/24 初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/15 巨大ブラックホールに繰り返し削られる星
- 2023/08/09 電波銀河の巨大ブラックホールに落ち込む水分子
- 2023/07/24 成長中の巨大ブラックホール周辺を電波で観測
- 2023/07/04 129億年前の初期宇宙でクエーサーの親銀河を検出