天の川銀河の中心付近に若い星の「すき間」が存在
【2016年8月3日 東京大学】
天の川銀河の基本的な形は、天体までの距離を測定することによって調べられている。しかしこの方法は万能ではなく、特に銀河の円盤部分では、大量に分布する星間空間の塵の影響のために多くの領域で星の分布がまだわかっていない。
東京大学理学系研究科の松永典之さんたちの国際共同研究チームは、「ケフェイド(セファイドなどとも言う)変光星」というタイプの天体を塵の影響が比較的小さい近赤外線で観測することにより、これまで塵に隠されていた銀河中心領域の星の分布を探った。このタイプの変光星は変光周期と星の真の明るさに一定の関係があるので、周期から求めた真の明るさと見かけの明るさを比較することで距離を測定できる。
南アフリカ天文台のIRSF望遠鏡とSIRIUS近赤外線カメラを使って天の川銀河の中心方向を5年にわたって観測したところ、29個のケフェイド変光星が見つかった。このうち4個は銀河中心から約800光年以内の狭い範囲に分布していたが、残りはすべて太陽系から見て銀河中心の向こう側にあり、しかも中心から8000光年以上遠くにあることが明らかになった。この距離決定には、星間塵によって星が暗く見える効果を正しく補正したことが重要である。
ケフェイド変光星は1000万年前から3億年前に生まれた星が進化したもので、百数十億年の歴史を持つ銀河に数多く存在する星の中では若い星のグループである。星は3億年程度では誕生した場所からそれほど大きく散らばることはないため、ケフェイド変光星の分布を探ることによって星がどのような場所で最近作られていたかを探る手がかりが得られる。
松永さんたちの観測は、天の川銀河の中心付近に若い星のない「すき間」が存在することを明らかにしている。このすき間は「バルジ」と呼ばれる、百億年前に生まれた古い星が多く存在する領域だ。そこに若い星があまりないという可能性はガスの分布などから過去にも指摘されていたが、実際の星の分布に基づいてすき間の存在を示したのは初めてのことである。
今回の結果は、塵に隠されているために見えていなかった領域を赤外線観測で調べることで、天の川銀河の広い範囲の星の分布、ひいては銀河の形を明らかにできるという可能性を示すものだ。今後の大規模な赤外線観測によって、天の川銀河の星の分布がさらに解明されていくだろう。
〈参照〉
- 東京大学: 天の川の中心付近に若い星のすき間を発見 ~銀河の中心近くは少子化社会?~
- Royal Astronomical Society: A Giant Stellar Void in the Milky Way
- MNRAS: A lack of classical Cepheids in the inner part of the Galactic disc 論文
〈関連リンク〉
- IRSF望遠鏡: http://www-ir.u.phys.nagoya-u.ac.jp/~irsf/
- 星ナビ.com:
- 2014年6月号 連載「天文学の20世紀」第1回「ケフェイド変光星の発見 ヘンリエッタ・リービット」
- こだわり天文書評: 「リーヴィット 宇宙を測る方法」
〈関連ニュース〉
- 2015/11/04 - 天の川銀河のバルジに、若い星からできた円盤構造
- 2014/05/20 - 天の川銀河外縁部のフレア領域にケフェイド変光星
- 2011/08/30 - 銀河系中心のケフェイド変光星を世界で初めて発見
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