99.996%の確率で、暗黒エネルギーの存在を証明
【2012年9月18日 王立天文学会/NOAO】
ドイツとイギリスの大学研究チームが、この宇宙の73%を占めると考えられている正体不明の暗黒エネルギーが99.996%の確率で存在するという研究成果を発表した。
10年前、遠方の超新星の観測から、宇宙が加速膨張していることが明らかになった。重力にさからって膨張を加速させているのは、宇宙の73%を占めるなぞの物質「暗黒エネルギー」である。2011年のノーベル物理学賞はこの功績に対して送られたものだが、暗黒エネルギーの存在そのものについては今も議論の余地がある。
これまでにさまざまな手法で暗黒エネルギーの本質に迫る観測が実施されてきたが、いずれも宇宙の加速膨張を間接的に調べるものであり、また不確実性の影響を受けやすかった。
その存在に関する確実な証拠を初めて理論で示したのが、「ザックス・ヴォルフェ効果」である。その名前は、Rainer Kurt Sachs氏とArthur Michael Wolfe氏に由来する。
ビッグバンの熱の名残として現在の宇宙を満たし、宇宙の全方向からほぼ均等にやってくるマイクロ波を「宇宙マイクロ波背景放射」(CMB)と呼ぶ。Sachs氏とWolfe氏は1967年、物質の密度が濃く重力の強い領域を通過する光がかすかに青く(波長が短く)なると提唱している。
1996年、Robert Crittenden氏とNeil Turok氏(現・カナダのペリメーター研究所)は、この考え方をさらに発展させた。彼らは、CMBの温度分布図と近傍宇宙の銀河地図とを比べることによって、光のエネルギーのわずかな変化を見ることができるはずと提唱したのである。暗黒ネルギーが存在しないなら、はるか遠方宇宙から届くCMBの分布と近傍宇宙の銀河分布とは対応しないはずで、存在するのなら、CMBの光子が重力の強い領域を通過する際にエネルギーを得るのだという。
そして2003年、ザックス・ヴォルフェ効果が初めて検出されて暗黒エネルギーの存在が示され、その研究成果は米誌「サイエンス」にも掲載された。しかしながら、検出された値が小さく、CMBの温度分布図と近傍宇宙の銀河地図との間の相関関係も薄いと見られたため、複数の研究者が天の川銀河内にあるちりによってもたらされた誤差ではないのかと指摘した。ザックス・ヴォルフェ効果に対しては、効果の検出そのものを疑問視する研究者もおり、暗黒エネルギーを立証するこれまでで最も強い証拠さえも疑問視されることなったのである。
今回の研究成果
独・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンと英・ポーツマス大学の研究チームは、比較に使う分布図を改良し、2年にわたる研究でザックス・ヴォルフェ効果の検出に対するすべての疑問を吟味した。その結果、99.996%の確率で暗黒エネルギーが存在し、さらに暗黒エネルギーがCMBの温度分布図上のより温度の高い領域の原因となっていると結論づけた。
研究に利用されたのは、銀河分布とCMBの分布の観測データを殻状に視覚化したものだ(画像)。データを取得したマイクロ波観測衛星WMAPの観測限度である460億光年先までのCMBを段階的に示している。研究チームは、より現在に近い殻状図とCMBの殻状図との間にわずかな相関関係を検出することに成功したのである。
研究チームのTommaso Giannantonio氏は「今後行われるであろう、CMBと近傍銀河の次世代サーベイによって、暗黒エネルギーの決定的な計測が行われるはずです。またその成果には、一般相対性理論の確認も含まれるでしょう。さらに暗黒エネルギーを含め、どのように重力が働くのかについてなど、すっかり新しい解釈を必要とするような成果がもたらされることでしょう」と話している。
アメリカの「ダークエネルギーカメラ」が初観測
南米チリにあるアメリカのセロ・トロロ汎米天文台で、口径4mのブランコ望遠鏡に搭載された「ダークエネルギーカメラ」(DECam)による初画像が公開された(画像)。
80億光年までの銀河を一度に10万個とらえることができるという高性能で、銀河団、超新星、重力レンズ効果(暗黒物質を含んだ銀河団などの大質量天体により、その向こう側の遠方天体の像が変形して見えること)といった、暗黒エネルギーを研究するためのあらゆる観測調査を行うことができる。
試験観測を経て、今年12月に本格観測が開始される予定だ。