土星の光から読み取る、太陽系30億kmの旅

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【2012年10月10日 すばる望遠鏡

小型望遠鏡で気軽に見ることのできる人気の天体、土星とその環。その光を詳しく分析すると、光を発した太陽と反射した土星、さらに地球についての、さまざまな情報を読み取ることができる。


スペクトルからわかる、土星と環の運動

土星と環のスペクトル

2011年7月19日(ハワイ時間)にすばる望遠鏡の高分散分光器(HDS)で取得した土星と環のスペクトル。左側が短い波長、右側が長い波長の光を示す。左はHDSのスリットビュワカメラで撮影した像。クリックで拡大(提供:国立天文台。データの取得・画像作成はハワイ観測所の田実晃人氏。以下同)

スペクトルとは、1方向からの光を波長ごとに分解し、どの波長の光が弱いか、あるいは強いかを見ることができるものだ。

画像1枚目では、土星とその環の光にすばる望遠鏡の分光器のスリットを当てて取得したスペクトルが示されている。土星の光は基本的に太陽光が反射したものであり、スペクトルの縦方向に見える暗い線(暗線)は、光が太陽に含まれる物質を通過したときの痕跡だ。中央の太い暗線は、水素原子による吸収を示している。

土星本体のスペクトルの暗線が傾いているのが見えるが、これは土星の自転によるものだ。自転により地球から見て遠ざかっている側からの光は波長が長くなり、近づいている側からの光は波長が短くなる(注1)ことで、暗線が現れる箇所もずれてくる。ちょうど、ゴムひもに黒い印をつけて伸び縮みさせた状態のようなものだ。

このずれから、土星赤道付近の自転速度は毎秒約10kmということが計算できるが、この値は、すでに知られている赤道半径と自転周期から計算したものとよく一致している。

上下にあるのは環のスペクトルで、環の運動の様子をうかがい知ることができる。本体の傾きと呼応した上下のずれから、環が本体と同じ向きに回転していることがわかる。また、細いためややわかりづらいが、本体と反対方向の暗線の傾きが見られ、環の外側は内側よりもややゆっくりと回転していることがわかる。

出入国スタンプさながら? 土星と地球の痕跡も

土星本体のスペクトルの詳細

土星本体のスペクトルの詳細。地球大気による吸収線、太陽光の反射に見られる(太陽表面でつくられた)吸収線、太陽光の反射の際に土星表面でつくられた吸収線の3種類が、異なる傾きで写っている。クリックで拡大。

画像2枚目は、土星本体のスペクトルをさらに詳しく見たものだ。上述した太陽のスペクトルよりも傾きが少ない土星表面のガス(メタンやアンモニアなどの分子)による吸収線、地球大気によるまっすぐな吸収線が見られる(注2)。

光が太陽から出発して土星に届き、そこで反射されて地球に至るまでの約30億kmという道のりの痕跡が、そのスペクトルにはすべて刻まれているというわけだ。

このように、高波長分解能観測による天体の光の分析は、天体の運動や大気での光の反射・吸収といったさまざまな情報を明らかにしてくれる。

注1:「ドップラー効果」 通り過ぎる車のサイレンが急に低くなるのと同じ原理。近づいてくる時には音波の波長が短く、遠ざかる時には長くなる。同様に、観測者に近づいてくる光の波長は短く、遠ざかる光の波長は長くなる。

注2:「太陽スペクトルの傾き」 太陽からやってきた光に刻まれた暗線は、土星表面で反射されるので自転運動の効果が2倍効き、傾きが大きくなっている。