月のウサギは巨大衝突で生まれた 「かぐや」データで判明
【2012年10月29日 産業技術総合研究所】
月探査機「かぐや」のデータから、月面の巨大盆地が大規模な天体衝突によって作られたという証拠が示された。この衝突が月の表と裏の違いをもたらしたと推測されており、月の「ウサギ」模様を作った一大事件を解く重要なカギとなりそうだ。
私たちが地上から見る月は、自転周期と公転周期が一致しているため常に同じ「表」の面が見えている。探査機の画像でしか見ることができない「裏」の面は、表側に広く見られる「海」と呼ばれる暗い部分がほとんどなく、また表側に比べて標高が高く地殻が厚いなど、さまざまな違いがある(画像1枚目)。
こうした月の「二分性」の理由として、表側に巨大な天体が衝突したためとする仮説が提案されている。表側の大部分を覆う直径3000kmのプロセラルム盆地も、そのときに形成された衝突盆地であるというものだ。
この二分性の謎を解明するべく、産業技術総合研究所の中村良介さんらは、2007年から2009年に月周回探査を行った衛星「かぐや」のデータを利用した。月面上の約7000万地点で取得した200億点以上のデータを解析し、天体の高速衝突で溶けた物質に多く含まれる低カルシウム輝石が、プロセラルム盆地に多く分布していることを突きとめた。こうした分布は「雨の海」や「南極エイトケン盆地」にも見られるが、いずれも衝突盆地として知られる地形だ(画像2枚目)。
プロセラルム盆地のような巨大な地形が作られるほどの衝突が起こったなら、そこに存在していた「高地」はほぼ完全にはぎとられたはずだ。地殻がはぎとられ深部の圧力が減少すると、溶岩が噴出し、窪地にたまって「海」ができやすくなる。こうして、プロセラルム盆地をつくった超巨大衝突によって月の二分性が生じたと考えられる。
「かぐや」のデータから、月の二分性が巨大天体衝突によるものという説の科学的な裏づけが得られた。今後は地形や元素組成などのデータの解析も行い、衝突が実際にどのように起こったのかを明らかにしていく予定だ。また今回のような研究解析手法は、地球観測衛星による鉱物資源の探査や環境モニタリングにも応用できると期待される。