銀河団50個のダークマター分布、「冷たい暗黒物質」モデルと一致
【2013年6月14日 すばる望遠鏡】
目には見えないものの、重力的な影響からその存在がわかる正体不明の「ダークマター」。50個の銀河団におけるダークマター分布を調査したところ、「冷たい暗黒物質モデル」と呼ばれる理論から予測される分布と一致する結果が示された。
「ダークマター(暗黒物質)」は、電磁波による観測で直接見ることはできないが重力的な影響からその存在が確認されている物質で、宇宙の物質の約85%を占めると考えられている。しかし、その正体は未解決のままだ。
ダークマターについて現在もっとも有力なモデルは「冷たいダークマター」と呼ばれるものだ。「冷たい」とは熱運動の速度がひじょうに小さいことを示し、ダークマター同士あるいは通常の物質との間には重力だけが作用する、という理論である。このモデルが正しければ、銀河団のような質量の大きい天体におけるダークマターの分布は銀河など低質量の天体と比較してあまり中心に集中せず、やや拡がるはずだとされている。
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構など日英台湾の国際研究チームは、すばる望遠鏡で撮影した50個の銀河団におけるダークマターの分布を調べた。直接見ることはできないダークマターだが、その重力によって銀河団の向こう側にある天体像をゆがませる「重力レンズ効果」を調べれば分布を知ることができる(画像1枚目)。
観測と解析を行ったところ、50個の銀河団に含まれるダークマターの分布を平均すると冷たいダークマターモデルが予測するものにひじょうに近いという結果が得られた(画像2枚目)。従来の研究では銀河団中心への集中度が大きい、つまり冷たいダークマターモデルと一致しない結果が報告されていたが、今回の結果は有力モデルを支持するものとなる。
研究チームの岡部信広さん(台湾中央研究院)は「これまでの研究では用いた銀河団のサンプルが少なく、銀河団の個性が結果に影響しているのではないかと疑っていました。今回、50個という過去最大の銀河団サンプルを偏りなしに選択し、すばる望遠鏡で撮影した高精度のデータを解析することで、ダークマターの分布の平均的な姿を導き出したのです」と語っている。今後は銀河スケールでのダークマター分布を測定し、その性質や銀河形成に関わる物理過程を解き明かしていきたいとしている。