太陽に向かって歩みを早めるアイソン彗星
【2013年9月25日 星ナビ】
明け方の東の空で穏やかに増光中のアイソン彗星は、11月の太陽最接近に向けてこれから明るさを増すと期待される。9月5日発売「星ナビ」10月号より、近況記事を紹介する。
(※)9月5日発売「星ナビ」2013年10月号の記事(執筆:吉田誠一さん)をWeb用に再構成したものです。
2013年の大本命、アイソン彗星が、いよいよ明け方の空に姿を現した。半年にわたって光度が停滞したまま、太陽の向こうに回って6月から観測できなくなっていたが、はたして本当に明るくなっているのか。世界中が固唾を呑んで見守っていたはずだ。
早くも8月12日から、筆者のもとには続々と観測報告が寄せられている。2か月ぶりに姿を見せたアイソン彗星は、13等台後半から14等の明るさだった。これは、当初の予報と比べると、1.5等から2等ほど暗い。だが、アイソン彗星は、6月の時点ですでに予報を1.5等ほど下回っていた。彗星自体は、この2か月で、2等ほど明るく成長したことになる。長らく停滞していたアイソン彗星も、どうやら再び明るさを増してきたようでひと安心だ。
アイソン彗星の姿は、夕方の空に見えていたころと比べてそれほど変わっていないように見える。小さな本体から短い尾を伸ばした姿で、大きく広がる淡いコマはまだとらえられていない。これは、まだ地平線すれすれで観測条件が悪いためかもしれない。
6月13日のNASAの天文衛星「スピッツァー」による観測でも、ダストの尾は30万kmも伸びていたが、ガスのコマは小さかった。当時はまだ、太陽から3.3auも離れており、ガスも二酸化炭素の蒸発によるものであった。だが、アイソン彗星は、すでに小惑星帯を通り抜け、太陽に2.3auまで近づいてきている。そろそろ、彗星の主成分である水の氷の蒸発も活発になり、彗星らしいコマが見えてきてもよい頃だ。広がったコマが見えてくれば、彗星はさらに明るく見えるだろう。
最近になって、サーベイシステムのパンスターズが2011年9月から2012年1月にかけて撮影した5夜の画像から、過去のアイソン彗星の姿が発見された。報告された光度は、20〜21等。パンスターズの測定光度は、他の観測者と比べて暗い傾向があるので、実際はもう少し明るかった可能性もある。これまでのところ、アイソン彗星はやや予報を下回っているが、2年間にわたっておおむね順調にゆっくりと明るさを増してきている。
9月のアイソン彗星は、当初の予報では11等から9等まで明るくなるはずであったが、実際には13等から11等ほどにとどまるかもしれない。それでも、大型の望遠鏡であれば、眼視でも見える明るさになってくる。彗星の淡いコマは、CCDよりも眼視の方がとらえやすいため、眼視観測ではCCD観測よりも1〜2等ほど明るく見える傾向がある。もしかしたら、当初の予報どおりに復活するかもしれない。
アイソン彗星は、9月上旬ごろにかに座のプレセペ星団に接近。その後はしし座に向かってゆっくりと東に移動し、しだいに地平高度も高く見えるようになってきた。
10月1日には火星に0.07auまで近づいてすぐそばを通り抜けていく。火星を周回する探査機からの観測も計画されているのでどのような成果が得られるか楽しみだ。
地球から見ても、火星は10月下旬までずっとアイソン彗星のすぐ近くにあり、良い目印となってくれる。10月半ばには、アイソン彗星と火星にしし座の1等星レグルスも加わって、3天体が大接近する。
さあ、いよいよ「アイソン彗星劇場」の本番の幕が上がった。これからアイソン彗星は急激に太陽に近づいていき、11月29日(日本時)には太陽の表面をかすめる。わずか3か月の間に彗星の明るさは1億倍以上にもなる。はたして期待どおりに世紀の大彗星への道を駆け上がっていくのか。一時も目を離せない日々が始まる。