火星の衛星は巨大天体衝突で形成可能、シミュレーションで解明
【2016年7月6日 東京工業大学】
火星の衛星フォボスとダイモス(デイモス、ディモスとも)は、半径が10km程度、質量が火星の1000万分の1未満と非常に小さい天体で、半径1000kmを超える地球の衛星である月(質量は地球の約100分の1)とは大きく異なる衛星だ。どちらの衛星も形状がいびつという特徴もある。
形状と表面のスペクトルが火星と木星の間に存在する小惑星と類似していることから、フォボスとダイモスの起源は小惑星が火星の重力に捕獲されたものである(捕獲説)と考えられていた。しかし捕獲説の場合、火星の赤道面を円軌道で回っているという運動を説明するのが極めて困難であることが指摘されている。
一方で、火星の北半球に巨大天体の衝突で形成された太陽系最大のクレーター「ボレアレス平原」が存在していることから、巨大天体衝突による衛星形成(巨大天体衝突説)も提案されている。地球の月の形成過程としては同様の「ジャイアント・インパクト説」が有力視されているが、火星の衛星も天体衝突で形成されたという具体的な過程を明らかにした研究はこれまでになかった。
ベルギー王立天文台のPascal Rosenblattさん、東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典さん、神戸大学の兵頭龍樹さんたちの研究チームは、コンピュータ・シミュレーションによって巨大天体衝突説を検証し、次のようなプロセスで衛星を作ることが可能なことを示した。
まず、火星質量の数%の天体が火星に衝突して破片が飛び散り、火星の周囲に大量の破片を含んだ厚い円盤と、その外側に少量の破片でできた薄い円盤が作られる。内側の円盤の物質が集まって巨大衛星が形成され、外側に移動して円盤外縁部を重力的な効果でかき混ぜ、フォボスとダイモスの形成を促進した。
その後、巨大衛星は火星の重力に引かれて落下して消失し、現在観測される2つの衛星だけが生き残った。内側に巨大衛星ができていなければ、フォボスやダイモスよりも小さい衛星が数多く誕生してしまい、現在の火星系とは異なる姿になっていたと考えられるという。
今回の研究により、火星の衛星が巨大天体衝突によって形成可能であることがわかった。しかしこの結果は、必ずしも捕獲説を否定するものではない。実際にどちらの説が正しいのかを決めるのに有効なのは、衛星の物質を分析することだ。巨大天体衝突説が正しければ、衝突でばら撒かれた相当量の火星の物質が衛星に含まれていることになるので、日本が計画検討中の「衛星からのサンプルリターン」(探査機で衛星の物質を採取し地球に持ち帰る計画)で衛星の起源が明らかにできるかもしれない。
〈参照〉
- 東京工業大学: 火星衛星フォボスとディモスの形成過程を解明―JAXA火星衛星サンプルリターン計画への期待高まる―
- 東京工業大学 地球生命研究所: 火星衛星フォボスとディモスの形成過程を解明-JAXA火星衛星サンプルリターン計画への期待高まる-
- Nature Geoscience: Accretion of Phobos and Deimos in an extended debris disc stirred by transient moons 論文
〈関連リンク〉
- 東京工業大学 地球生命研究所: http://www.elsi.jp/
- 月探査情報ステーション: 日本が火星の衛星からのサンプルリターン探査を実施か?
- アストロアーツ
- 【特集】火星を見よう(2016年5月31日 地球最接近)
- 投稿画像ギャラリー:
- 星ナビ.com こだわり天文書評:
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- 2007/11/30 - 火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」の最新画像
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