米、「クルードラゴン」で9年ぶりに有人宇宙飛行を再開
【2020年6月1日 NASA】
米国の宇宙企業スペースX社が開発した宇宙船「クルードラゴン」は、NASAの宇宙飛行士Robert BehnkenさんとDouglas Hurleyさんを乗せ、5月31日4時22分(日本時間、以下同)に米・フロリダ州のケネディ宇宙センターから同社のファルコン9ロケットで打ち上げられた。
NASAが米国の宇宙船で有人宇宙飛行を行うのは、2011年7月21日にスペースシャトルの最終ミッション「STS-135」でスペースシャトル・アトランティス号が帰還して以来、9年ぶりのこととなる。さらに、NASAの飛行士が民間の開発・運用する宇宙船に搭乗し、米国本土から国際宇宙ステーション(ISS)へ向かうのは史上初だ。ケネディ宇宙センターではトランプ米大統領とペンス副大統領らも打ち上げを見守った。
打ち上げの成功を受けて、NASAのJim Bridenstine長官は、「今日、人類の宇宙飛行の新時代が始まりました。私たちは再び米国の飛行士を米国のロケットに乗せ、米国本土からISSへ打ち上げました。Behnken・Hurley両飛行士とスペースX社、NASAのチームが米国にとっての偉業を成し遂げたことに、感謝と称賛の言葉を贈ります。今回の商用有人宇宙システムによる打ち上げは、米国の優位性を明確に示すものであり、月へ、そして火星へと有人探査を広げようとする我々にとって重要な一歩となります」と語った。
今回の「デモ2」ミッションは、スペースX社のクルードラゴン宇宙船とファルコン9ロケットで打ち上げから軌道飛行、ISSとのドッキング、帰還までを確認するシステム全体の試験だ。クルードラゴンの飛行試験としては2回目で、宇宙飛行士が搭乗してのテストは初めてとなる。
スペースX社のCEOで主任技術者のElon Muskさんは、「私とスペースX社全員の夢がついに叶いました。これはスペースX社チームとNASA、その他数多くのパートナーが膨大な労力を積み重ねた末の結晶です」と述べた。
今回の打ち上げ管制はスペースX社のスタッフによって、かつてスペースシャトルの管制室として使われたケネディ宇宙センターの発射管制センター第4発射室で行われた。打ち上げ後はカリフォルニア州ホーソーンにある同社のミッションコントロールセンターに管制が引き継がれ、NASAはテキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターでISSの運用・監視を行う態勢が取られている。
打ち上げ後のクルードラゴン(愛称「エンデバー」)は地球を周回しながら高度を上げ、途中で手動による操縦テストも行われた。打ち上げから17時間54分後の31日22時16分にはISSの「ハーモニー」モジュールにあるドッキングポートから220mの位置に到着し、23時27分にドッキングに成功した。6月1日2時02分にはクルードラゴンのハッチが開き、Behnken飛行士とHurley飛行士がISSの第63次長期滞在クルー3名に出迎えられた。
Behnken飛行士は「デモ2」ミッションの共同運用コマンダーを務め、宇宙船のランデブー・ドッキング・分離とISS結合中の活動を担当する。2000年にNASAの宇宙飛行士に選抜され、これまでにスペースシャトルで2008年と2010年に宇宙飛行を行い、3回の船外活動を経験している。2008年のSTS-123ミッションでは日本の実験モジュール「きぼう」をISSに運んで結合させるミッションに携わった。2012年から2015年までNASAの宇宙飛行士チーフを務めた。
Hurley飛行士は「デモ2」の宇宙船船長で、打ち上げ・着水・回収に関する活動を担当する。2000年に宇宙飛行士に選抜され、スペースシャトルで2009年と2011年に2回の宇宙飛行を行った。2011年のSTS-135ミッションはスペースシャトルの最終飛行となった。
今回ISSにドッキングしたクルードラゴン「エンデバー」は、最長で約110日間ISSに滞在することができる。滞在後、Behnken・Hurley両飛行士は再びクルードラゴン「エンデバー」に搭乗し、ISSを離れて地球に帰還する。エンデバーは大気圏に再突入し、フロリダ沖の大西洋に着水する予定で、スペースX社の回収船によって回収される。
8月にはクルードラゴンの正式運用ミッション「USCV-1」で日本の野口聡一宇宙飛行士を含む4名の飛行士がISSに向かい、第64次長期滞在クルーとなる予定だ。クルードラゴンは最大7名まで搭乗できる設計で、100kg以上の貨物を搭載できる。これにより、ISSの滞在要員を増やして宇宙実験などの時間を増やし、より多くの科学成果を地球に持ち帰ることができるようになると期待されている。
(文:中野太郎)
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