単独の白色矮星の質量を初めて測定

このエントリーをはてなブックマークに追加
白色矮星が遠くの星の手前を通過するときに起こる「重力マイクロレンズ現象」を利用して、連星でない白色矮星の質量が初めて直接測定された。

【2023年2月10日 ESA/Hubble

白色矮星は太陽のような比較的軽い星が一生を終えた姿だ。星の中心核が重力でつぶれて超高密度になり、ぎゅうぎゅう詰めになった電子から生じる「縮退圧」で星全体を支えている。こうした極限状態の天体の内部については今も謎が多い。

白色矮星の性質を理解するにはその質量を知ることが重要だが、恒星の正確な質量は2つの星が連星になっている場合にしかわからない。また、連星であっても公転周期が数百~数千年と長いと、公転運動のごく一部しか観測できないため、精度よく質量を求めるのは難しい。

はえ座にある「LAWD 37」は地球から15光年と比較的近く、スペクトルなど多くの観測データが得られている白色矮星の一つだが、連星ではないためにその質量はわかっていなかった。

米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校のPeter McGillさんたちの研究チームは、LAWD 37が遠い星の手前を通過するときに、LAWD 37の重力によって背景の星の見かけの位置がわずかに変化する「重力マイクロレンズ効果」をハッブル宇宙望遠鏡(HST)で数年にわたり観測した。「レンズ」となる天体が重いほど背景の星の位置ずれも大きくなるので、このずれの様子を精密に測定することでLAWD 37の質量を算出できる。

重力マイクロレンズ効果
LAWD 37が引き起こす重力マイクロレンズ効果の概念図。手前の白色矮星の重力によって時空が歪められ、背景にある遠方の星から届く光の進路が曲げられ、実際の位置からずれて見える(提供:NASA, ESA, Ann Feild (STScI))

観測の結果、LAWD 37の質量は太陽の0.56倍であることがわかった。これは理論的に予測されている白色矮星の質量ともよく一致している。

「このような現象はまれで、星の位置ずれの大きさも微々たるものです。例えば、私たちが測定したずれの大きさは、月面に置いた自動車の長さを地球から測るようなものです。今回、LAWD 37の質量を正確に測定できたことで、白色矮星の質量と半径の関係を確認でき、死を迎えた星の内部という極限状態にある縮退物質の理論を検証できます」(McGillさん)。

研究チームの一員である宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のKailash Sahuさんは、2017年には別の白色矮星「Stein 2051 B」による重力マイクロレンズ効果を検出しているが、この白色矮星は連星だった(参考:「重力レンズ現象で計測された白色矮星の質量」)。今回の観測は、単独の白色矮星の質量が重力マイクロレンズ効果で初めて直接測定された例となる。「LAWD 37は完全に単独の星であり、この観測は白色矮星の質量測定にとって新たな基準となります」(Sahuさん)。

背景の星の前を通過するLAWD 37
(左)ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したLAWD 37。表面温度が約10万度と高温のため、青白い輝きを放っている。(右)2019年5月から2020年9月にかけて、背景の星の手前をLAWD 37が通過する様子を連続撮影したもの。青い曲線は背景の星を基準にしたLAWD 37の位置の変化を示す。年周視差によって波形の軌道を描いている。画像クリックで拡大表示(提供:NASA, ESA, Peter McGill (UC Santa Cruz, IoA), Kailash Sahu (STScI); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))

今回、研究チームはヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」のデータによって、LAWD 37が2019年11月に星の手前を通過することをあらかじめ知ることができた。こうした現象を事前に予測できるようになったのは、約20億個もの天体の正確な位置と運動が「ガイア」によって得られたおかげだ。

さらに研究チームはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使い、別の白色矮星「LAWD 66」によって星の位置が変化する現象を2022年に観測している。この現象による星の位置ずれは2024年に最大となる見込みで、今後数年をかけて観測を続ける予定だ。

「『ガイア』はこの分野の研究を一変させました。ガイアのデータを使って白色矮星の通過現象がいつ起こるかを予測し、後から実際に現象を観測できるのはエキサイティングです。重力マイクロレンズ効果の観測を続けて、さらに多くの種類の星で質量測定を行いたいと考えています」(McGillさん)。