重力レンズ現象で計測された白色矮星の質量
【2017年6月14日 HubbleSite】
1915年にアインシュタインが提唱した一般相対性理論によれば、天体の重力によって周囲の空間が歪み、天体より遠いところからその空間を通って届く光は曲げられて観測される。この「重力レンズ効果」は4年後の1919年、エディントンが皆既日食の際に、太陽のすぐそばにある星の光を観測して実証された。しかし、太陽系外の星がレンズ源となる場合にはこの効果による光の曲がり方がごく小さくなるため、これまでに観測されたことはなかった。
米・宇宙望遠鏡科学研究所のKailash Sahuさんたちの研究チームはハッブル宇宙望遠鏡を用いて、白色矮星「Stein 2051 B」が5000光年彼方の星の手前を通過する様子を2年間にわたって7回観測し、この白色矮星による重力レンズ現象をとらえた。
Stein 2051 Bは、きりん座の方向にある、誕生してから27億年の白色矮星だ。地球から17光年離れており、白色矮星としては太陽系から5番目に近い天体である。この近さのおかげで地球からの見かけの動きも大きくなるので、天球上を動いていくうちに、より遠方の星の手前を通過して重力レンズ効果を起こすチャンスも増える。
観測の結果、白色矮星の重力レンズ効果によって背景の星の位置が2ミリ秒角(1度の3600分の1の、さらに1000分の2)だけずれていることが確認された。これは1000km先の光の位置が約1cm動いたのと同程度のずれで、1919年に太陽で観測された効果による変化量の1000分の1しかない。「白色矮星のほうが400倍も明るいことも、観測を困難にした一因でした」(宇宙望遠鏡科学研究所 Jay Andersonさん)
位置のずれの大きさからレンズ源となったStein 2051 Bの質量を計算すると、太陽のおよそ68%になった。これは恒星進化の理論から予測される白色矮星の質量と一致している。「マイクロレンズ効果を使った星の質量の計測は、他の理論によらない独立した直接的な方法です。光の位置のずれを観測するのは、体重計に星を乗せてその針の動きを見るようなものです」(Sahuさん)。
研究チームでは同様の研究を、太陽系に最も近い恒星プロキシマケンタウリでも行う予定である。
〈参照〉
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