金星極域の高温の生成・維持メカニズムを理論的に解明

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コンピュータシミュレーションによる研究で、金星の極域上空の大気に見られる高温状態を再現することに成功した。特異な気温分布の生成・維持メカニズムを理論的に解明した、世界初の成果だ。

【2016年2月2日 ISASJAXA

1970年代の金星探査ミッションにより、金星の極域上空の大気では、気温が高い領域を冷たい領域が囲んでいるという不思議な気温分布が見られることが明らかになっていた。しかし、なぜそのような気温分布が生じ、さらに長期間維持されるのかというメカニズムは、これまで解明されていなかった。

特異な気温構造が長期間にわたって維持されていることから、このメカニズムには惑星規模の大気現象が関係していると考えられ、極域の気温分布を理解することは惑星全体の大気の性質を理解することにもつながる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の安藤紘基さんが率いる研究チームは、地球大気用の大規模シミュレーションモデルを金星大気用に改変し、金星極域の気温構造の解明を試みた。

大気の組成や太陽からの熱量などに基づいたモデル計算の結果、極近傍で気温が高くその周りを冷たい空気が取り囲むという、これまでに観測された気温分布が再現され、緯度による気温差を作るのは南北方向の大気の循環であることがわかった。

「これは、上空の大気が引きずり下ろされて周りの空気から圧縮され、温度が高くなっていることを示しています。温度が高くなった気流が極近傍を集中的に暖めることで、金星極域における特異な気温分布が作られると考えると、現象を自然に説明できます」(安藤さん)。

シミュレーションで再現された金星極域の上空温度と大気の流れのイメージ図
シミュレーションで再現された金星極域の上空温度と大気の流れのイメージ図。赤道域が高温で高緯度になるにつれて温度が下がっていくが、極域の一部に高温部が再現されている(提供:JAXA、以下同)

「一方、金星大気の全体的な気温分布に着目すると、気温は赤道で低く高緯度で高くなっています。それにもかかわらず、赤道から極への流れができているということは、南北方向の循環が強制的に作られていることを意味しています」(JAXA 今村剛さん)。

金星の分厚い雲層が太陽光によって加熱されると、東向きに進む波(熱潮汐波)が生じる。この波と金星大気で吹いている強い東風(スーパーローテーション)とが作用し合って、極向きに強い流れが作られ、これが南北循環となる。大気の流れが極域で集まる過程には金星全体を包み込むような巨大な波が関係しており、極域で生じた下降流により大気が圧縮され継続的に温度が高くなっていることを、シミュレーションの結果は示唆しているのだ。

熱潮汐波により南北循環が励起されることのイメージ図
熱潮汐波により南北循環が励起されることのイメージ図

今年4月から本格的な観測を開始する金星探査機「あかつき」によって、南北方向の大気の流れの強さや気温分布がわかれば、今回の理論モデルの実証につながる。モデルを元に観測成果を解釈することで、金星の大気・気象への理解が深まることも期待される。

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